▼021:水谷

 西広、ごめんね。別に対抗意識がないなんて事はないんだよ。西広を見下してるとか、そんなんじゃなくて、あのね、ただ、西広ならいいやって思うの。背中を預けるって言うか、片割れって言うか、兎に角、西広が俺と同じポジションにいるのが嬉しいの、安心するの。任せられるって、思うの。だから、でも、ごめんね。おれ、たぶん、もうにしひろと競えないよ。ごめんね。ごめんなさい。

(それは、信頼だったはずなのに。)


▼022:泉

 水谷は誰も嫌わないね。
 誰かを嫌いになる自分が嫌なんだ。

 その栄口と水谷の会話を、泉はずっと後まで覚えているだろうと思った。

 みんな好き。だから水谷は誰とも恋をしないのだと、泉だけが知っている。


▼023:栄口+水谷

 俺さぁ、阿部が好きじゃん? 恋人だし。
 うん。
 でも、阿部は捕手だから、投手の三橋を優先する事なんてザラでしょ?
 嫌?
 んーん。逆。寧ろ、三橋より俺を優先したり、三橋を大事にしない阿部なんか嫌いだ。
 あー。水谷、三橋も大好きだもんね。

 って言う、水谷と栄口の会話。


▼024:花井+阿部

 お前さぁ。
 …なに。
 水谷に見捨てられたら終わりだぞ。
 …チームとして?
 いや。

(人として。)

 ……知ってんよ。

 そんな事、と言う声は震えて消えた。

 知ってんなら、と言おうとして花井はやめた。知っててできないのがこの阿部という、人として不器用極まりない男なのだ。


▼025:花井+阿部

「…おい」
「あ゛?」
「…なんでそんなに俺を睨むんだよ」
「……」
「おいって」
「最近、水谷がお前の事好きすぎてムカつく」
「…はぁ?」
「だから」
「いや、二回も言わなくていい。つーかそんなの前から…」
「あぁそうだよ前からだよ! でも最近は更に何かありゃあ引っ付きやがって…!」

 っておい。花井、自覚してたのかよ。

 と言う、他らーぜの溜息と賞賛。




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