▼016:阿部

 吐き捨てる。涙も出ない阿部には、そうするしか他に術はなかったのだ。

「好きなんて感情、最初からなけりゃよかったんだ」

 八つ当たりのように、暴言を。


▼017:水谷

 何度傷ついたって、何に泣いても、呆れるくらい好きって言うよ。

(だからそこで、待っていて。)

 それで誰も救われなくても。


▼018:水谷

 阿部は、あれで。

「好きだ」

 直球がお好みだ。だから。

(たまには変化球を投げてください)

 心臓が保ちません!

「栄口たすけてー」「ヤだよ。嬉しいくせに」「そーなんだけどーっ」


▼019:阿部

 水谷の背を見送る。視線はその背から離せないのに、足はいつまでも地面と仲良しで。
 立ち竦む。…いや、これは。

(追いかけない、という選択。)

 追ってばかりじゃ逃げられる。(水谷には飴と鞭の使い分けが鍵)


▼020:水谷

 友達、という不透明で絶妙で、でもそれ以外の何者にもなれない立ち位置。

(だからどこにも動けない。)

 心地いいポジションで微睡んでいたい。(でもそれじゃあ欲しいものは得られない。)




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