▼001:水谷

 恋は、綺麗なものだった。ネオンみたいにキラキラして、星みたいに尊い。
 そう思ってた。
 だって周りの恋はそう見えたんだ。女の子は綺麗になった。男だって恋で急に身なりを気にしだしたりして、かっこよくなって。
 恋は綺麗で、美しく、幻想のよう。でも、じゃあなんで。

(俺の恋は綺麗じゃないの。)



▼002:?

 神様は意地悪だ。
 こんなに多くの男と女が世界中に散らばってて、この学校でさえ沢山の人がいるのに。なんで俺とあいつを会わせたの。なんで俺にこんな気持ちを与えたの。自分はたった一人で恋ができないからって。かみさまのばか。

(せめて男は男を好きにならないように創ってよ)

 神様に八つ当たり。


▼003:?

 同じチームでも、しのーかは野球、できないじゃん。

 そう言ったのは水谷で、なんでもない事のように言ったその言葉は、けれど俺達の胸に深く深く突き刺さった。呆然とした空気の中、それでもいつもを崩さない水谷は、だからさ、と言葉を繋ぎ。

 一番近くの席で、甲子園の試合、見せてやろーな、と笑った。



▼004:阿部+水谷

 …やだ、汚い、離して。

 半泣きの顔で水谷が懇願する。確かに少し頑張れば水道まで歩いていける。だが怪我をしたのは足の裏。歩かせるのは酷だし、手を貸すのも面倒だ。
 だからいい。これでいい。
 そもそも、こっちは想いを伝えた時点で、受け入れられた時点で泥まで啜る覚悟なのだ。

(今更足の裏なんて)

(なんなら姫抱きにしてやろうか?)(……きゅ、究極の選択…!)


▼005:阿部


 寒くても、何かを両手で持った方が効率がいいって分かっていても、右手はいつも空けておく。そしたら。

「あーべー!」

 俺の世界に飛び込んでくるあいつ。するりと握られる右手。それはいつも少しだけ冷たくて、でもすぐ俺の熱と溶け合ってあったかくなる。

(あぁ…)

 お前の左手を握るのが、俺でよかった。

(例え何時か、離れるのだとしても。)




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