GodHand

[ 神の手(霜花落処) ]



 無音の闇を享受する。
 放課後、夕焼けに照らされながら、泥と汗にまみれながらも賑わっていた部室とはあまりにかけ離れた雰囲気に、す、と細く息を吐く。
 そうして何を期待しただろう。緊張にさざめく心の平穏か。若しくは、諦めの残滓を駆逐することか。
 分からない。知りようもない。何かを期待したかさえ、自分のことでありながら量りかねた。思考が闇が深まるにつれ愚鈍になっていっているようだ。もともと敏い方でもないのに、困ったことだ。
 けれどもう、慣れた。
 黒に黒を重ねるように、瞼さえ閉じて闇に耽り、そう心の中で嘯く。
 本当に慣れたなら心を鎮めるように吐息を零すことはない。疲れたように、瞼を閉ざすこともない。
 部室の扉がひそりと開けられた事実に、躰を震わせることはない。
 知っていることだ。知っていたことだ。何度も、繰り返されたことじゃないか。
 普段の傲岸不遜を思わせない静けさで近づいてくる足音も。風がないのに、春夏秋冬、変わらず一気に温度が下がったように感じることも。眼鏡がそろりと、優しささえ感じるほどの手付きで外されることも。
 そして、そうして。
 言葉もなく。声もなく。手だけで、いや寧ろその指先に唆されて顎を上向ける。
 それは教え込まれた動作。無機質な動き。熱はない。心も動かない。ただ、肌が粟立って。
 唇をすっと薄く開ける。
 そうして、冷たい人形は熱を覚える。





 言葉もなく。声もなく。奪われるのは震える吐息と、





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 20121223
〈不自然が自然になってしまった二人の関係。〉





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