Jack the ripper

[ 切り裂きジャック(霜花落処) ]



 きもちわるいっていってよ。

 膝を抱え、そこに顔を埋めて水谷は言う。そのせいで顔は見られないけど、声はどことなく涙色。

 なんでまだそばにいるの? おれ、すきっていったじゃん。さかえぐちのこと、そーゆーいみですきなんだっていったのに。

 詰るように言われて苦笑する。

 馬鹿だね、水谷。

 零れた言葉は、ほんの少し苦味を残しつつもやんわりと甘い。それに水谷は気づかない。視界と共に耳も閉ざしてしまったかのよう。ただその言葉だけを受け取って、そこにある俺の気持ちなんて蚊帳の外。ある事さえ思い至らない。ひどい、と返された声にどっちがだと返したい。
 どっちが酷いの。ねぇ、水谷。俺はずっと待ったのに。ずっとずっと、この日を待ってたのに。酷いね、水谷。

 …さかえぐち?

 やっと何かに気づいて水谷がそろりと顔をあげる。遅いよ。水谷はいつもそうだね。

 さかえぐち…なんで、泣きそう?

 手を伸ばされる。頬に触れられる。冷たい指先。あぁ熱を分けてやらないと。その思いは、俺の涙が叶えてくれた。
 水谷、水谷。気持ち悪くなんかないよ。お前の傍を離れるわけないじゃないか。なんで気づかないの。

(お前が俺を好きになるより先に、俺がお前を好きになったのに。)

 さかえぐち。

 拙い呼び声。戸惑いの色。あぁもう。言葉が介在するから分からないんだね。だったら分からせてあげる。言葉じゃなく行動で。そうしたらお前を傷つけると思ったから我慢してたけど。もう駄目だ。仕方ないね。

 さかえぐち…ーーーっ…!

 水谷、水谷。

(お前が、悪いんだよ。)





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 20130322
〈さらば、微温湯のまほろばよ。〉





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