My Dear

[ 愛しい人・親愛なる(霜花落処) ]



 泉と水谷は自他共に認める親友だった。
 クラスは離れてるし、部活中や休み時間、水谷は花井と阿部の傍にいるし、泉は田島と三橋の世話で喋る事はあまりなかったけど、最初に仲良くなった関係と言うのはやはりどこまでも特別に続くものらしかった。
 だから水谷の特別は泉で、泉の特別は水谷だった。
 だからこそ、互いが互いを必要とする時がふと訪れる。花井と阿部では駄目なのだ。田島と三橋では駄目なのだ。それをよく知るから、こうして泉は水谷の隣にいると言うのに。
 ひとつの着信で、水谷はそれを終わらせようとする。田島か三橋からのメールが、泉の携帯に届いた時。隠そうとしたって、水谷は聡くそれに気づいてしまう。そうして、行ってあげてと笑って言うのだ。今誰よりも泉を必要としているのが自分だと知っている癖に、他の誰かが泉を求めると、呆気なくその意思を曲げてしまう。
 それは水谷の長所であり、短所であった。泉にしてみれば無視するか、寧ろここにいてと縋ってほしいくらいなのに。

 ここにいる。

 結局そう言うのは泉の役目で、言われた瞬間離れようとする水谷の手を握るのも、泉の役目だった。

 お前の方がほっとけねぇよ。
 …友達なくすよ?
 こんなんでなくならねぇよ。それに、お前だって俺のダチじゃねぇか。
 …俺は、最後でいいのに。
 ……。
 後ろから数えて最初で、いいのに。

 嘘つき、では、ないのだ。多分水谷は心底そう思っていて、そう思っている癖に泉の傍にいようとする自分を嫌悪している節があった。悲しい事だ。泉は思う。こんなに傍にいて、言葉より心の疎通ができていない現状が悲しくてたまらない。

 水谷ー。
 ん?
 俺、泣きそう。
 泣きそう?
 おー。
 …慰めた方がいい?

 小首を傾げて、手を繋いでいる為に肩が触れ合うほど近くにいる水谷が問う。泉はそれを聞くのか、と苦笑しながら。

 そーしてくれ。

 そう言えば、もう水谷が逃げようとしない事を知っていた。





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 20130320
〈妥協と怯懦(きょうだ)の終着点。〉





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