fairy tale

[ おとぎ話・童話(霜花落処) ]



 水谷の私服はカラフルだ。
 パレットに必要な分だけじゃなく、あれもこれもと乗っけてしまったような、そんな服。でも不思議と煩わしさも、似合わないという事も、また取り合わせが可笑しいと思う事もない。それは水谷のセンスの良さか、それとも水谷というキャラがそう思わせるのかは分からない。
 ただ、制服以外では頑固なほどに単色やモノクロを好まなかった。
 私服のカラフルさに気づいてから観察するようになったが、絶対に三色以上身につける。さりげなかったり、大胆だったり、その色の配置と配色はその時々によって違っていたが、やはり似合わないという事はなかった。
 けれど不思議には思う訳で。

「お前の服って虹みたい」

 いつかそう、脈絡もなく言った事がある。多分その時の水谷の格好が、自分の隣に在るには色鮮やかすぎたのだろう。自分にあまり拘りはないが、単色か、黒が服の色として多い。無難で、冒険心のないタイプの服ばかり持っているのも思わず言葉にした一因だったのかもしれない。
 水谷はその言葉を不快に思った素振りは見せなかった。そう?、とどこか嬉しそうに言って、けれどその表情も俺が言った虹を探すように空を見上げると、風に吹かれた水蒸気のように掻き消えてしまった。
 そして。

「単色って、さみしいから」

 静かな横顔で、そう言ったのだ。
 何故、とも、何が、とも聞けず。

(水谷は今日も、虹を纏って生きている。)





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 20130302





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