declaration war

[ 宣戦布告(霜花落処) ]



「阿部ってさぁ、なんでブラック飲むの?」
「あ?」
「や、別に飲むなって言いたいんじゃなくて、ブラックあんま好きじゃないよね?」
「…」
「いつも以上に眉間に皺寄せながら飲んでるから、不思議だなって」

 ふとたまに、水谷はやけに洞察力が鋭くなる。何も見ていないようで、よくよく周りを見ているのだと、栄口辺りがそれこそ不思議だよねと笑いながら言っていた。しかもそれは、相手が隠そうと思っている事に特化して発揮されるのだとも。

「…クソレの癖に」

 こんな時に、それが正しいなどと実感したくはなかったのに。

「クソレ関係ねぇ! 阿部ひどいー」

 いつもの泣き真似プラス、机に突っ伏した水谷。今日は新発売のアイスを食べてて、それをもう食べ終えてしまったからだろう。常よりも絡み方が若干しつこい。何かを食べている間なら、何かで意識がずれても直ぐ軌道修正されて食べ物の方に向くのに。

(まぁだから、俺の様子にも気づいたのだろうけど)

 面倒な事だ。心底思いながら、手は水谷の方へ伸ばされ、肩を叩く。水谷はぐだっていた割に素直にのそりと躰を起こすと、ん?、と小首を傾げる。それを見ながら椅子から腰を浮かせ、水谷に顔を寄せる。唇を奪う。舌を絡ませるのは、ご愛嬌。時折零れる濡れた音と拙く震える声にじわりと広がる心地よさを覚えながら唇を離す。潤んだ双眸と火照った頬を見て笑い、また珈琲を口に含む。
 暫く息を整える為か無口でいた水谷は、それを見て思い出したようにぽつりと言った。

「…苦い」

 俺の眉間に寄っていた皺が水谷の所にお引越し。打ち消す甘い物がなくて水谷は項垂れて、けれど少し経って聞こえたのは。

「…阿部ってさぁ」
「おー」
「俺が何か甘い物食べてる姿、好きなの?」

 だからブラック、飲むんだね?、とにたりと笑う水谷は、ちろりと舌を見せてまた。

「苦いよ、あべ」

 挑発的に俺を見上げてきたのだった。





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 20130302
〈とろとろと、甘くキャラメルラテの瞳が揺れている。どうぞ食べてと、どこぞの御伽噺のように。〉





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