go to pieces

[ 粉々になる・取り乱す(霜花落処) ]



 ポロポロと透明な雫があられもなく水谷の頬を転がり落ちていく。それを水谷は頑張って拭うのだけど、その努力を嘲笑うように、涙腺は決壊し水谷の袖を濡らすばかりでは足りないと、服の裾まで滴り落ちる。
 顔は見られたもんじゃない。ぐちゃぐちゃで、赤ん坊の泣き顔に似ている。
 それを言えば水谷は笑うだろうか。泣き止むだろうか。考えて、でも結局その思考と提案が口から零れる事はなかった。水谷の方が先に喋り出したからだ。
 あのね、と言う声はしゃくり上げられ、酷く拙い。顔以上に言葉が幼児退行してしまったかのよう。そう、思ったのに。

 世界は全然優しくないね。

 水谷はそう言ったのだ。

 思う以上に、考えてたよりも、俺が生きる世界は厳しくて、なんも温かくなくて冷たくて、吃驚するぐらい、優しくないの。息をするのが辛い。立ち上がるのがしんどい。何が悲しいのか分からないくらい哀しいの。ねぇ、あべ。なんでこんな世界でそんな平気な顔して生きていけるの。あべとおれはなにがちがうの。

 水谷は一息に言い切って、聞いた癖に答えはどうでもいいかのように、膝を抱えて一層酷く泣き出した。
 放課後の、もう誰もいない真っ暗な廊下に水谷の泣き声が響く。響く。反響し、それは巡り巡ってここに。
 どこにも行けない。水谷の問いかけに対する答えなど、どこにもないのと同じように。





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 20130223
〈世界は優しさ欠乏症。〉





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