god only knows

[ 神のみぞ知る(霜花落処) ]



 好きって言ってもらえるだけでいいなんて嘘だよね。

 昼休み、近くを通り過ぎた女子の会話の一端が聞こえた。漫画かドラマの話らしい。実際はそんなものでは満たされないと、彼氏持ちらしい女子がシビアに応える。だよねー、と明るく賛同する声が幾つか返った後、移動教室だからと扉の向こう側に消えた。
 それを聞いてしまったのは、俺だけではなくて。

 …でもさ。

 向かい合って座ってた水谷が俯いたままで言う。

 でも、さ、でも…1がなきゃ、100はないわけだし…だからそれは、絶対なくちゃいけないものじゃん…。

 辿々しく言って、その言葉の終着点を探すように視線を揺らす。伏せられた長い睫毛が顔に影を作る。
 それでも言葉を見つける事はできなかったのだろう。ふっと小さく笑ったと思うと。

 …俺、誰に言い訳してんだろ。

 水谷は下を見たまま、俺を見ないままそう呟く。あぁそうだな。声に出さず頭の中で作る声は、いやに固く響いて俺の心を軋ませた。その笑みを見てられなくて、その痛みから目を逸らすように俺は静かに目を閉じて。

(誰に言い聞かせてんだよ。誰を想って、言ったんだよ。)

 呑み込んだ言葉を、瞼の裏に投げ出した。





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 20130109
〈1も望めない僕等なのに。〉





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