handful of happiness

[ 一握りの幸せ(霜花落処) ]



 ふと(のぼり)に目がいった。近くデパートの20周年記念があるそうだ。ただそれだけの幟。だからもう視線を引き剥がして、あぁ、少し先に行ってしまった恋人を追いかけねばならないのに。
 足は地面に釘で打ち付けられた板のよう。視線は接着剤で固められたみたい。幟とともに、20周年記念という言葉が風に誘われて踊る。
 じわりと心に滲む何か。それは一体、何だろう。
 正体を知る前に手を握られた感覚に我に返る。視線はいとも簡単に幟から離れ、横に向く。先に行ったはずの恋人の横顔が見えた。恋人は自分と同じように幟を見上げて、そのまま。

 …負けてらんねぇな。

 と勝気に笑う。いつもの、ふとした瞬間、安堵をくれる顔で。…あぁ、ほんと。

 ん。

 頷いて、手を握り返す。俯いた瞬間涙が零れ落ちたのは、内緒の、話。





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 20130108
〈俺達の恋が花ではなく地面に蔓延る根なのだとしても、長くあるならそれでいい。俺が君の隣りで花のように笑っててあげるからね。〉





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