①permission:許し




 行為の最中、徐々に浅い息遣いに嬌声が混じらなくなる。何故か。光樹が唇を噛むか、枕に顔を押し付けているからだ。
 それは射精感を堪えるため。僕はそれを見計らって光樹の熱を宿した唇にキスをする。気づいた光樹が、涙に濡れ濡れた瞳をそっと押し開いて僕を見た。ぼんやりとして、けれど何かを待つように。そのいじらしさに微笑んで。

「…いい。僕が許す」

 耳元で囁いてあげれば、光樹はひどくほっとしたように目を和らげてうっすら笑みを浮かべると、促すような動きに掠れた甘やかな声を上げて達した。
 そんな風に、光樹はいつも僕の許しを請う。理性など焦らしに焦らした前戯でなくなっているはずなのに、彼は毎回律儀に僕の言葉を待った。最初はそうじゃなかった。そうだな、あの女装させてデートをした日からだろうか。
 家に連れ帰って襲うように口づけて、着替えないまま脱がせないまま雪崩れ込むように手を出した。光樹はひどく嫌がったが、それで快楽に勝てるはずもなく、次第に理性も躰もぐずぐずに溶けていった。
 けれど一向に達しない。いつもならば既に音をあげているだろうにと怪訝に思えば、腰を戦慄かせ、唇を噛んで耐えていた。そんな必要ないのにと、噛み締めて赤く熟した唇を舐めて口付けるも、光樹は嫌がるように顔を背けるばかり。何故と問えば、やっと言葉が返ってきた。

『だめ…汚す…』

 だからせめて脱がせてくれと、熱い吐息を零して懇願する。半ば意識と理性の飛んだ瞳からは瞬けば涙が。まったくそんな些細なことに気を遣る余裕など最早ないだろうにと溜息を吐いた。気づかなかった僕はしぶとく耐える光樹を散々弄り倒していた。辛かっただろうに、と労いも込めて額に口づけて。

『いいよ、汚して。許してあげる』

 この僕がね、と笑った。光樹はそれに何故か安堵を覚えたようだ。それまでの意地にも似た頑固さを捨て、素直に背筋をせり上がる悦楽に身を委ねた。
 それからずっとこの調子。それも無意識だ。熱に浮かされて、光樹は何も覚えてはいないけれど。
 だがこれは僕が光樹に許しを与えているんじゃない。光樹が僕に許すことを許してくれているんだ。
 僕等は主従関係になく、支配被支配の間柄でもない。僕は光樹に命令する気はないし、光樹も誰かからの命令なんて聞かないだろう。
 だからこそこの関係は好ましい。

「せい…」
「うん。おやすみ、光樹」
「…ん…」

 僕は、光樹に許されている。





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