(九)




 風が鳴く。風が軋む。冬の吹雪が季節を間違えて到来したかのよう。窓がカタカタと唸って煩い。でもそれを指摘する人間など、ここには誰もいなかった。

「…そ、んなの、できるわけないっスよ!」

 沈黙を破って、黄瀬が叫ぶ。コウキはそれに酷く不思議そうに顔を傾けた。

「そう?」

 きょとん、と効果音のつきそうなその様子は、本気でそう思っていることが分かって黄瀬は胸がつきりと痛むのを感じた。
 確かに自分は部外者だ。関係のある赤司が敢えて部外者の立ち位置を維持しているのは違い、黄瀬は本当の意味でコウキと何ら関わりのない位置にいる。接する時間も短く、話しかけるのも常に黄瀬からで、好意は一方的なものだったかもしれない。
 だがそれでも、コウキの言葉に頷いてやることはできなかった。

「なんで、忘れられると思うの…っ? 一緒に喋ったじゃん。一緒に笑ったじゃん。俺、コウキっちと喋って、笑って、楽しかったっスよ…! そりゃ、赤司っちみたいにずっと一緒にいられたわけじゃないけど、尻尾触ったりヤなことしたかもしんないけど、それでもっ、俺がコウキっちのこと忘れるわけないし、それはみんなだって同じっス…! …それに…っ」
「それに?」
「……これからずっと一人、なんて、…寂しすぎるっスよ…――」

 嘗て一人だった黄瀬には分かる。誰も彼もが灰色で、透明で、そこにいてもいなくても一緒。周りに人はいるのに、黄瀬はいつだって一人だった。もしかして見渡したら誰かいたかもしれないけれど、その時の黄瀬は自分から自分の殻に篭って、勝手に世界に絶望していた。それでいいと思っていたし、そう思いながら自分は生きて死んでいくのだろうと、悲観している自覚もなく諦めていた。
 でも出会ってしまった。色鮮やかな青に、赤に、緑に、紫に。そして、影にも色があるのだと教えてくれた水色に。出会ってしまえば、もう独りには戻れない。孤独なんて耐えられない。なんであれだけ一人でいられたのだろうと不思議なくらい、今は一人が恐ろしい。あの一人の時間、あれは途轍もなく寂しいものだと気づいてしまった。

「…慣れるよ」

 だからコウキのその言葉にだって、躊躇いなく首を横に振る。そんなのは幻想だ。叶わない、夢に似た。

「無理だよ。だってコウキっちは一人じゃない楽しさを知っちゃったでしょ? セイさんに会って、俺達に会って、楽しかったでしょ?」

 そうじゃなきゃ嘘だ。間近で見たコウキの笑顔に偽りなんかなかった。本気で楽しんでいた。知らないものを知って、触れたことのないものに触れて。それを知らなかった頃には、どうしたって戻れない。

「だから、コウキっちはここに戻ってきたんじゃないんスか?」

 一人きりになった時、その孤独に耐えず、別の誰かを求めた。楽しい思い出のある、優しい記憶が渦巻く、セイのいる所に行こう。そう思ったのは、今ここにいるのは、そういうことでしょう?、と言う黄瀬の言葉に。

「それ、は…」

 それまで徹底してコウキの顔に浮かんでいた笑みが、脆く剥がれる。そのことにコウキに答えを知って、だったらもう無理だよと黄瀬は言った。優しく柔らかく、もう手遅れだと突きつける。後は寂しさに沈んでしまうだけなのだと言い重ねて。

「だから、ねぇ、無理に帰ることないっスよ」

 そんなことを、言う。何を言うのと、呆気にとられるコウキに真正面から微笑んで。

「同じ一人なら、できるだけ長くみんなで過ごしてからでも遅くはないっスよ」

 その言葉に一層大きく見開かれたコウキのヘーゼルと、静かな黄瀬のレモンイエローの瞳がぶつかって、互いの瞳の中で混じりあう。それを見て、黄瀬は思わずという風に笑った。色が揃うこの六人の中で、自分の色が一番コウキの色に似ていると、何故だかこんな時に思った自分が可笑しかった。

「ほんとはね、紫原っちが『山に帰るの?』って聞いた時、言うつもりだったんだ。でもコウキっち、帰るって言うし、家族とかいたら申し訳ないなって思ったから、黙ってたけど。だけどコウキっちの背景聞いた今なら、遠慮なく言えるっス」

 …なんで、この人はそんなに優しく笑うのだろう。コウキは泣きたい気持ちを堪えてそう思う。コウキはただ帰る決意を聞いてもらって、さようならと送り出してもらいさえすればそれでよかった。他に何かを望んだわけじゃない。それは差し出がましいことだし、望むべきでないことだ。ほんの少し、楽しかったねと言ってもらえれば嬉しいなぁとは、思ったけれど。
 家族がいたらなんだと言うのか。いなかったらなんだと言うのか。関係ない。関わりない。自分など行きずりの旅人のように忘れてくれて構わない。数日後には思い出になっているくらいで丁度いい。だから、だから。

(もう、何も言わないで)

 そう、願うのに。

「一緒に、暮らそ」

 端的に言われた言葉に、どうしたってそれ以外の意味に取れない言葉に、コウキの目はますます大きく開かれた。だからこそ分かる。その瞳によぎる不安とか困惑とか、ほんの少しの揺らぎとか。コウキは黄瀬を見ながら呆然としてゆっくりと頭を振った。そんなのできるわけないと、言うように。

「何、言って…おれ、今はこんなでも狐なんだよ? みんなは人で、おれとは違う。全然、違うの」
「うん、分かってる」
「分かってないよ。一緒にいちゃいけないんだって。なのに、なんで、なんでそんなこと言うの?」

 分かんないよ、とコウキは泣きそうな顔で言う。黄瀬はそんなコウキを落ち着かせるように優しく言った。

「コウキっちは元々狐で、でも今は妖怪みたいな存在で、お母さんが亡くなって一人になっちゃって、会いたい人がいたけど会えなくて、でもその代わり、俺達に会った。―――ほら、全部、分かってるっス」
「そ、ういうことじゃ、なくて…っ」
「そういうことっスよ。何も難しいことなんてない。後はただ、コウキっちが「うん」って頷いてくれるだけでいいんスよ」

 違う、違う、そうじゃない。コウキはふるふると首を振る。そんな簡単なことじゃない。

「でも、それじゃあ、同じだよ? おれ、結局いつか一人になるよ? ただ時期が違うだけ。今一人になるか、いつか一人になるか、たったそれだけの違いだよ? だったら、今一人になった方が、いい」
「なんで?」
「な、なんでって…」

 黄瀬の返しに、コウキは口籠る。何を言わせたいんだと顔を歪ませるコウキを見て、黄瀬はしょうがないなと、年下の子を相手にするように微笑んで。

「俺達のこと、好き?」

 そう聞いた。面食らったコウキは押し黙り、黄瀬はじっと返事を待つ。言わなければ言わないほど居心地の悪さが押し寄せてきて、コウキはとうとう諦めて小さく、「…好きだよ」と確かに言った。それを聞いた黄瀬は、まるで水を得た魚のよう、にっこりと顔を綻ばせて「だから、でしょ?」と言う。

「だから一緒にいたくないんだ。コウキっちは、俺達とお別れする日がくるのが怖いんだ」

 確かに自分達はいつかコウキを置いていく。寿命があるから、どうしても。だからコウキのためを思うようでいて、実際はとても酷なことを言っているのは黄瀬とて百も承知だった。自分の提案は、しばらくの孤独を紛らわせる代わりに思い出を背負えと言っているようなもの。
 それでも、そうだとしても、黄瀬はコウキを一人にしたくなかった。思い出を背負ってほしかった。一緒にいてほしいと思った。一人は寂しい。だから少しの間でも一人にさせない。いつかいつか、置いて行くことになっても。

「でも、だからこそ一緒にいたいと思わない? コウキっちは、セイさんが知らない間に亡くなってたのを知ってショックだったでしょ? 最後に会えなくて、哀しかったでしょ?」

 コウキはその無遠慮な問いに少し顔を引き攣らせて、でも躊躇いながらもこくりと微かに頷いた。哀しかったと、ぽつりと掠れた声で言い添えて。その表情が言葉以上に哀しみに染まっていて、黄瀬は本当にその人が好きだったんだなぁと今更ながら思う。
 だからこそ、その人の時と同じかそれ以上に、コウキを幸せにしてあげるのだ。出会って、事情を知って、はいさようなら、なんて、誰がさせてなるものか。

「だったら、俺達とは最期まで一緒にいようよ」

 山で一人寂しく過ごしながら、俺達は元気かな、もしかしたら、なんて考える必要なんてない。一緒にいれば、怖いものなんて何もないよと黄瀬は笑った。それまで絶対寂しい思いはさせないし、後悔だってさせない。

「俺等はセイさんの代わりでいいよ。それでコウキっちが寂しくないなら、全然オッケーっス」

 だから、ね、と言う黄瀬に、コウキは。

「…そんなの、無理だよ…っ」

 笑いながら、でも目が怖いくらい真剣な色を帯びる黄瀬の視線から、呑まれまいと逃れるように周りを見渡した。

「ねぇ、みんなも言ってよ…っ、そんなことできないって…!」

 自分が言うだけでは駄目だと、救いを求めるコウキと目があった黒子は困ったように頬を掻き。

「えっと…すみません。僕等みんな、黄瀬君と同じ考えなんです」

 だからご期待に沿うことはできませんと謝って、唖然とするコウキに「実はね」と、内緒話をするようにひそりと言った。

「黄瀬君が昨日からずっと言ってたんです。コウキ君がもしセイさんを探そうって思ってたり、ここにいたいと思った時は、みんなで面倒みてあげようねって。だから僕はいいですよって言ったんです」

 ね、と他の四人に振れば。

「うるせぇほど言うから、俺は多分家に泊めてやることはできねぇけど、それでもいいならって言っといた」
「青峰に同じなのだよ」
「俺は黄瀬ちんの考えいいなって思ったから、コウちんならウェルカムだよっておっけーしたー」
「そういうことっス!」

 各々の言葉にコウキは一層言う言葉をなくして、最後に何も言っていない赤司を縋るように見た。赤司はその視線を受けて。

「…俺は、コウキの考えを聞けと言った」

 と、静かに零す。コウキはそれに一番驚いたようだった。

「征十郎も、知ってたの…?」
「明日来いとメールした時に、概ねのところを送られてきたからな」

 そう言って止めはしなかったものの、黄瀬の提案は正直無駄だと思っていた。コウキの意思は固かったし、赤司自身も引き止める気はなかった。それも山に帰るとはっきりコウキが宣言した時点で白紙に戻されたと思ったのだが、その後の話が黄瀬達の決意をより堅くしたのだろう。

「みんな、よほどお前を気に入ったようだ」

 と、赤司は苦笑を零してコウキに向ける。コウキは酷く困惑した様子で赤司を見て、みんなを見た。微笑む黄瀬を見て、どうするんだと言いたげな青峰を見て、静かな緑間を見て、のほほんと佇む紫原を見て、穏やかな様でいる黒子を見て、また最後、赤司を見た。俯いて、零す。

「変なの…」

 笑わない。笑えない。何故という思いが心に渦巻いて、寧ろ泣いてしまいそう。コウキはまた口を開き、「みんな、変だよ…」と呟いて。

「おれ、すごく邪魔だったでしょう? とっても、迷惑かけたでしょう?」

 消え入りそうな声で、そう言った。まさかそんなこと、と身を乗り出した黄瀬と紫原を、だって!、とコウキは悲痛な顔で見上げて。

「みんな、ガッコウ、お休みしたんでしょ? 途中から抜けだしたんだって…! それに征十郎は、昨日も今日も、おれがいるからずっと休んでたんだって…ほんとは休んじゃ駄目なんだよね? …なのに、おれが来たから、家にいなくちゃいけないって、行けなかったんだよね…?」

 と問うコウキに、ぐ、と詰まる黄瀬と紫原、そして緑間と青峰に、自分達が夕食を作っている時に口を滑らせたようだと気づいて赤司と黒子は頭の痛む思いがした。
 確かに、コウキが来た日から今日まで並べて平日で、授業は当然あった。初日は全員が朝練の後に学校を抜けだしたし、赤司は昨日と今日、コウキを放って登校することはできないと、仮病を使ってまで学校を休んでいた。
 別に皆勤賞を狙っていたわけではないし、学業の面でも不安はない。ただ部活を休むことだけは、少し気がかりではあったけれど。

「…気にするな。俺達はより大事なものに時間を割いただけだ」

 赤司はそれでも、コウキを選んだ。祖父に頼まれた。コウキが体調を崩していた。コウキを一人にしておけなかった。色々な要素があって、そのどれが一番赤司の心を動かしたのかなんて、赤司自身よく分からない。だが全て引っ括めて、赤司はコウキの傍にいようと思った。義務感と、心に引っ掛かる何かのために。

「なに、それ…?」
「学校での時間は取り返しがつくんだ。一日二日休んだくらいで、人生が壊れてしまうほどの害はない。でもお前は違う。放っておいたら、お前は壊れてしまっていただろう」

 熱を出し、傷も負っていた。程度はそこまで悪くなかったにしろ、よくはない。もし自分が見つけなければその状態でいもしないセイを延々探し回っていたかと思うと、目眩がする。躰も心も、きっとボロボロになっていた。

「そんなこと、ないよ…! だって、おれは…っ」
「俺達とは違うから、か?」
「っ…そう、だよ」

 狐だから? 妖怪だから? ―――それがどうした。赤司は心の中に吐き捨てる。そんなものが理由になるとは思えない。狐だろうが妖怪だろうが、コウキ自身は酷く脆い、稚い子どものようだった。くるくると回る表情も、澄んだ瞳も、何もかも。
 祖父がコウキを慈しんだ理由が、だから赤司には分かる気がした。この子狐は静謐な水に似ているのだ。時には心を映す水鏡のようになり、時には心を潤す清冽な恵みになる。自身がそんな尊いものとは知らないまま、自然体で無防備に全身を預けてくるような信頼を寄せてくる。
 それは人が生きていくうちになくしていくものだ。相手に望むべくもないと諦めているものだ。祖父はきっとこの心に触れただろう。そして自然を何より愛した祖父が、そんな子狐を愛さなかったはずはない。そうでなかったら、自分がこれほど彼に執着することも、きっとなかった。

「それにおれ、みんなと関係、ないし…! そんなおれのために、みんながしなきゃいけないこと、放り出すことないんだよ…っ?」

 どうせ関係があったところで、この子狐は自分を第一に考えてくれとは言いはすまい。大体、あそこまで過去に切り込んだ話をした後に関係ないと言われるのも赤司は納得できなかった。「コウキの面倒を見たい」と言い出したのが全く関係のない黄瀬であったことが、関わった時間の長さや関係性よりも、相手に何を感じるかということが一番大切なのだという、何よりの証明だろうに。

「例えそうだとしても、じゃあ仮に、お前は俺が道端で倒れていても放っておくのか?」
「……ッ!」
「自分とは関わりないからと、横を通り過ぎるのか?」

 答えは聞くまでもなかった。鋭く息と言葉を呑み込んで目を逸らしてみても、コウキが考えることなど手に取るように分かる。分かって、でも、敢えて言わせようと黙ったままでいた。ここで赤司から答えを与えてしまっては意味がない。コウキが自分で選んだ答えはこれだと言わなくては意味がなかった。
 だから口を噤んでコウキをじっと見詰める。震える唇が、睫毛が、頑張って赤司の視線に耐えようと藻掻くコウキの心を表すよう。だがその強がりも数分と保たず、ぱちりと一つ瞬きをした双眸がゆっくりと赤司に見据えられて、くしゃりと歪む。

「…おか、ないよ…おれ、ほっとかない…! そんなの、だって、当たり前だよ…っ」

 征十郎を助けるよ、と泣きそうな顔で言うコウキ。優しい子でよかったと、赤司は硬くしていた表情を綻ばせてそう思う。それが当たり前でない奴もいて、この理屈が通らない者もいる。だから素直にその言葉を返せるコウキの心根に、赤司は優しく「そうか」と頷いた。

「それと、同じことだ。俺達はお前を放っておけなかった。助けたかった。ただそれだけのことだ」

 だからそのことでお前が悔やむな。勝手に俺達の心を決めつけようとするな。

 赤司はそう言って、コウキの榛の髪をさらりと撫でた。何度目かの触れるほどもない赤司との接触に、コウキは何故だか自分がほっと安心したのに気がついて、そのことに自分で驚いた。
 赤司の体温は特別高いわけじゃなくて、セイよりも低い。たった一度熱を感じた時はコウキの方が冷えていたからで、触れても温もりなんて残らず感触だけがあるそれは、コウキにいつも寂しさを刻みつけていた。
 与えてもらった熱に微睡んだ記憶が、赤司の指を拒んでいるのだと思っていた。自分が触れて欲しいのは、彼ではないと。

(でも、ほんとは…違うのかな)

 コウキはそっと遠ざかる動きを見せた赤司の手を取った。触れられた驚きか、異なる高さの熱に反応したか、ぴくりと赤司の手が震える。相変わらず赤司の手は冷たかった。可哀想なほど、熱のない手。思わず、温めてあげないとと思ってしまうような。

(…セイはいつも、こういう気持ちだったのかな)

 そうなのかもしれない。冬の冷たさに打たれて訪れた自分を、セイは丹念に温めてくれた。その時の自分はきっと、赤司と同じ手をしていたに違いない。熱のない手を、髪を、躰を、していたのだろう。

(冷たい躰は哀しい…温かくない指は、寂しい…)

 だから温めてあげたい。そう、思っていたのかなぁ。思いながらコウキは赤司の手を擦った。仄白い手が段々と赤みを指す。指先に熱が集まる。その行動に「コウキ?」と不思議そうに自分を呼ぶ赤司を見て、小さく、笑った。

「…より大事なもの」
「え?」
「分かる気がする…自分が本当は何をすべきかとか、自分の生き方とか、住む世界とか…そういうのを脇に置いても、何かしてあげたいって思う気持ち…」

 今なら分かる気がするよ、と、コウキは言いながら赤司の手を両手で包んで。

「…おれ、みんなが好きだよ」

 ほこり、と笑う。泣きかけの、じわりと潤んだヘーゼルが柔らかい。哀しさに泣くのでなく、寂しさに咽ぶのでなく、温かさを知った時の歓喜が滲む。

「だから、…ありがとう」

 だから。

(――…ばいばい)

 それは心の中に零された。静かにそっと、水面に消える雪のように。
 だからコウキの言葉に申し出が了承されたものと思い込んではしゃぐ黄瀬には届かない。無邪気に笑う紫原にも、笑顔を見せた黒子にも、互いに見あってふっと笑った青峰と緑間にも。
 赤司にも、そうであるといい。コウキは赤司を見た。赤司はコウキを見た。互いに考えを読むことはできなかった。
 ただ二人を繋ぐ手は、互いの体温が混じりあって、泣きたいほどに温かかった。





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