眷愛
[ side KING ]「……一度な」
ぽつりと、云う。遠く遠くを見詰めて、遠く遠くへ放るように。
「一度、云ったことがある」
軽く笑んで、でもそれが酷く優しげに見えて戸惑った。こんな近くでその顔を見られるとは思わなかった。自分に向けてでないことは、百も承知だけれども。気にした風なく彼は口を開き言葉を零す。見詰める先は、思い出の中。
「彼奴は何でもかんでもペラペラと言葉にするから
だから云ったんだ―――目を瞑って思い返す。その時を、あの情景を。今も色付いて忘れられない、あの日の記憶。
『よいか、ディル。言葉と云うのは減るものだ。なんでもポンポンと口にすれば良いというものではない。瓶に入った飴玉も、一つづつ取り出せば何時か空になるだろう? それと同じだ。だから言葉は大切にしろ』
言葉は云えば云うほど薄っぺらくなる。好きも嫌いも、綺麗も楽しいも。いい言葉も悪い言葉も、口にするだけ真実味がなくなると、そうも云った。
(…あぁ、なのに)
『大丈夫』
無垢に云い切った童は、
『飴はなくなるかもしれないけど、ギルへの好きは、云っても云っても底をつかないんだ。凄いねぇ。逆に云って減らさないと、此処が苦してく仕方がないんだ』
そう、胸の辺りの服を握って。
正直参った、と苦笑う彼に、それはまた…、とアルトリアも苦笑する。彼らしい、真っ直ぐな言葉だ。きっと照れることもなく云ったのだろう。それはひどく清冽で、柔らかな言葉。愛情表現とただ云ってしまうには、綺麗過ぎる
「それが、宝具を扱えることは強みだが絶対ではないと知った時だ。彼奴の言葉が、我は一番恐ろしい」
彼奴の言葉で、死ぬこともできそうだ。
くくと笑うその顔に、もう優しさは見当たらない。でも穏やかな気がして、知らず口元が綻ぶ。
「…凄いな、ディルは」
誰にも負けない自負はある。この男もそうだろう。己の上に立つ者など、決していやしないのだ。そう思って、それでも。
「ディルには敵わん」
笑って云った。今までも今もこれからも。ずっとずっと自分達がディルに勝ることはないだろう。それでいい、それがいい。そう思うことは、きっと同じ。
(決して、互いに云うことはないけれど。)