鄙歌

[ side ROOK'S PAWN ]



 静かな夜に目を覚ます。身を起こし窓を見遣れば煌々と白い月。些か明るすぎるそれにカーテンを閉めようかと身動いで気づく。
 傍らに、一人と、一人。
 自分を挟むように、囲むように。
 少女と、彼と。
 何故と見開く双眸は、一瞬の後に柔らかく細められた。あぁそうかと紡ぐ唇は弧を描いて紅く色づく。
 そろりと手を伸ばせば届く距離に二人。どちらを跨いで窓の処へ行こうにも、恐らくどちらかを起こしてしまう。
 すやすやと寝息が訊こえる。穏やかで、安らいだ。
 …壊してはいけない。
 諦めて、また身を横たえる。そっとそっと、横たえる。
 寝返りぐらいは許されるだろうかと、密やかに躰を傾けて彼と彼女の様子を窺った。
 常は不遜で眉間に皺を寄せることも少なくない彼も。
 凛として男顔負けに不敵な顔を見せる彼女も。
 ひどく柔らかで幼い顔をしていた。
 ひどくひどく、可愛らしい。
 思って、笑った。
 彼に彼女に、そのような印象を抱くとは。
 知れば彼は怒るだろうか、彼女は恥じるだろうか。
 想像する。―――楽しい。
 くくと笑みを噛み殺す。訊こえないように、知られないように。静かに、静かに。
 そうして、泣いた。
 ありがとうと云えない。次、いつものように目覚めれば、きっと彼等はいなくなる。そうして彼等は素知らぬふりで部屋に入り、揺り動かしておはようと云って笑うだけ。
 共に寝た事実など、夜と月だけが知る夢。
 そのことが淋しいのだと、云うのはなんだか辛いから。

「     」

 この言葉も夜と月だけが知っているといい。言葉も、夢も、涙も、全て。唇を、頭を、頬を押し付けるシーツに吸い込まれるといい。
 願って、瞼を閉じる。闇に耽ける。
 けれど白々とした月影が馴染まず、闇はあと少し、遠かった。





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