童歌

[ side KNIGHT ]



 泡沫に思う。弾けるそれにぽつりと云う。

「幸せになってくれないか」

 訊く彼は横で緩やかに瞬く。平行線の視線、同じで違う視界。それと同じで、

「…それが願いでは、ないから」

 交わらない、想い。
 溜息を吐きたくなるのを堪らえる。何故と問おうとする唇を噛んで耐える。
 彼がそう云う理由を知っている、故に、思うのだ。
 彼が、少しでいい、幸せを願ったなら、私は全力で叶えるだろう。私が大嫌いで、彼が大好きな彼奴もきっと。
 だから彼は願わない。幸せになろうとしてくれない。幸せになる為には痛みを伴うと知る彼は、決して。

(あぁ、けれど)

 水面に現れては消える泡を見たまま、彼を全く見ないまま、くちりと爪を手に立てる。
 ひっそりと、こっそりと。

(そんな貴方を見るしかない私達が抱える痛みには、貴方はちらりとも気づかない)





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