野薔薇の疵




 ここには、夜も、朝も、昼も、ない。静かで、痛くて、哀しい、場所。他には何も、何も、ない。光も届かない。時間の概念もない。暗くて、虚ろで、…それ、だけ。

『      』

 あぁまた何か、訊こえる。何も聞こえないのに、何も見えないのに、何も感じないのに、何故か。

『      』

 自分の体が横たわっているのか、立っているのか、座っているのか、吊るされているのか。分からないまま、何処かを打ち付けた感覚だけが、ある。

『      』

 何を哀しんでいるんだろう。何を絶望しているんだろう。訊こえない声に思う。見えない顔を想う。たった一度だけ見ることの叶った、あの人の。

『      』

 何を、啼くの。

『      』

 何で、泣くの。

『      』

 何に、哭くの。

『      』

 貴方は、ねぇ。

( と う さ   ま )

 記憶の中の父の顔、ぐにゃりと歪んで、あぁ、泣いているみたい。





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