仮初の月天

[ if : 穏やかな終焉 ]



「戦いに敗れたと云うことは、聖杯に願うまでもない想いだったと云うことだろう」

 そう云い、笑って。

「…悔いはない、未練もない――…決してそうは思わない。悔いはある。未練もある。だがそう云えるようになっただけ、俺はマシになれたのだろう。嘗ては、そうは思えなかったから…」

 消えていく。片端から。光となって、輝く砂となりながら、彼は。

「ランサー…」

 心許なく呼ぶ。優しい笑顔を返された。あぁ彼は優しかった。思い返せば、何時だって。心苦しいほど、胸が押しつぶされるほど。私はそんな優しさを受けられる身では、ないのに。震える躰。戦慄く唇。言葉を紡ぐことは、最早難しくて。

「……願いの続きは、夢に見よう」

 ランサー、待って、待ってくれ、まだ…―――声は出ない。躰も動かない。ただ目の前で、零れ落ちるひと粒ひと粒が無残に消えていく。彼の欠片、命の灯火が。それを留めようとすることもできないまま。

「さらばだ、セイバー。先に英霊の座で待っている」

 最後の一声。光は唐突に輝きを失い空に消える。(くずお)れる、空を見たまま。

「……ランサー…」

 見上げた先、夜空は、彼の光を散りばめたかのよう、哀しいほどに美しい―――満天の星空(そら)





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