優越のち落胆
[ お姫様抱っこ ]「今日は見回り行ってたんで、足が疲れやした」
「大丈夫か?」
歩ける?、と心配そうな近藤さん。
あぁ、隊士が見回りくらいで足が疲れる事も、ましてや歩けなくなる訳もないと、誰もが気付きそうな嘘を信じてくれる人。
いや。
そういう、馬鹿みたいな嘘を、思わず吐きたくなる、唯一人の、人。
「…近藤さん」
「ん? やっぱ歩けないか?」
えぇ、無理でさぁ。
近藤さんがこんな事を信じてくれる間は絶対に。
だから、甘えさせてくだせぇ。
「だっこ」
手を伸ばす。
近藤さんに。
じっと静かに瞳を見て。
周りの驚く隊士達なんて見てやらねぇ。
知らねぇ。
そんな俺を睨み付けるでもなくただ見てる土方のヤローも無視。
近藤さんだけを、見る。
そして。
「―――総悟は昔から甘え上手だなぁ」
笑って、近藤さんはそんな事を言って。
「ほら」
俺の腕を自分の首に回し、膝裏に手を差し込む。
「昔、こうして抱っこしてやってたな」
なんて。
懐かしむように、笑った。
そこに照れなんてものは一切なく、だからこそ思い知る。
(ついと俺達から目を逸らし静かに紫煙を吐き出した土方のヤローと、俺は同じ立ち位置に居るのだと)
20100203
〈手を伸ばす。手を取られる。それでもそこに俺の求めるものはなくて。〉