氷河期

[ 変化の果てに思うもの ]



 この感情の名を知っている。
 けれど、それを言うことは出来ないと思った。
 言ってしまえば、何かが変わってしまいそうで…。

(…何かが、変わる?)

 何を言う。
 もう変わってしまった。
 俺が変わって、あいつが変わって、9課が変わって。
 それぞれが変化していた。
 本当は変わるものなど、9課だけで良かったのに。
 たった一人の喪失で。

(……それでも、終わった事だ)

 変わってしまったものは戻らない。
 また同じ風に見えても、変わった経緯を乗り越えた後の姿だ。
 …同じである筈がない。

(それを、今抱える感情で呼んでしまう事に、酷く躊躇っている)

 髪型が変わった。
 笑わなくなった。
 …義体化、した。

(それだけの事だ。それだけの…)

 自分が嘗て辿った道を、あいつも辿っているだけの事。
 得る必要の無かった孤独感と責任感と重圧感を手にして。
 俺の後を、あいつは、辿って…。

(……それだけ、か?)

 あいつが、酷く拘っていた事を、知っている。
 生来の身体である事に、愛用の銃があれだという事に、誇りすら抱いていたのに。

(…そうさせたのは、誰だ)

 あいつは何も言うまい。
 誰が切っ掛けであったかなど、誰もが推察は出来ても、確証に似た何かを得ていたとしても。
 あいつは黙したままただじっと前だけを見て歩き続けるのだろう。
 自分の身体を奪ったのは誰だなんて、決して、言わずに。

(…だからだ)

 あいつの首が見える度に。
 何も語らない横顔を見る度に。
 堅い口調で指令を、報告を聞く度に。
 生まれる感情が、ある。





 あぁ。
 悔やんでも全てが変わってしまったのなら。
 もう、何もかもが戻らないのなら。

(それを哀しいと思って、良いのだろうか。)





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 20100105
〈変わったことが哀しいのではない。変えてしまったことが哀しいのだ。〉





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