myth

[ 神様に嫌われた子の話 ]



 開きっぱなしの口から漏れた息が熱い。
 腹も、痛いというより、熱い気がする。
 あぁもうよく分かんねぇ。
 何でこうなった。
 何がこうさせた。
 何をしたかった。
 自分は、あいつは、誰かは。

(また、死ぬのか)

 唐突に浮かんだその言葉に一瞬呆けて笑みが零れる。
 なんだそりゃ。
 やってられねぇ。
 けれど。

(あぁそうだ。前も―――そうだったじゃねぇか)

 二度目だ、これは。
 俺は二度死ぬんだ。
 二度とも、あいつの、目の前で。

(あいつは、これを覚えているんだろうか)

 くく、と笑う。
 何が可笑しいのかも分からない。
 それでも、笑わなければやってられない。
 馬鹿げてる。

(あいつの、前で)

 腹を押さえた手は血で汚れてて。
 なぁ寒いんだ。
 流しすぎた血は、こんなところじゃ雨にすら還れない。
 空に戻れない。
 俺はただ此処で死んで。
 それだけだ。
 もう。

 会えねぇな。

(………足音が聞こえる)

 一定のリズムを刻むそれは何時も通り淀みが無くて。
 こんな時までお前は自分を乱す事はねぇのかと、八つ当たりにも似た憤りを息に混ぜて吐いた。
 血が零れた。
 唇の端から滴っていく。
 服を汚す。
 腹を汚す。
 ドアの開いた音が聞こえた。
 息を呑む音が聞こえた。
 リズムを乱して近寄る足音を聞いて。

(……遅ぇんだよ、ばぁか)

 それでも何故か、満足するように笑う自分が居た。





 あぁ、自分はこいつの前で死ねるのだなと思って。
 神ってやつは余程俺が嫌いなんだと、思った。





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 20100111
〈「さよなら」―――愛した少女も憎んだ世界も俺に似てたお前も。〉





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