片恋sideM

[ 流星群に願う ]



 くたりと体をベッドに投げ出した彼は、すぐさま安らかな寝息を立てて意識を手放した。
 まったくつれないね、なんて零しながらその髪を撫でる。
 少しだけ湿り気を帯びながらもサラサラと指の間を零れていく髪は漆黒。
 私の金とは、似ても似つかない色。
 瞳も黒と蒼でまた違う。
 似ている部分は、多分、ない。
 この関係を続けているのが不思議なくらい、想いも多分、重ならない。

「…片想い、だものね」

 知ってる。
 優しいこの子は、情というものに流されやすいのだと。
 それは人の上に立つには必要のない感情。
 でもそれでこの関係が成り立っているのならそれも良いと。
 無責任にも、そう、思う。

(だって最期まで傍に居たいから)

 多分私はこの子よりも先に死ぬ。
 年齢がどうとかよりも、私は私が生きている限り絶対にこの子を先に死なせない。
 何があっても。
 何をしても。

(だから、その間だけでもせめて、この子の傍に居たいから)

 その為には優しさに付け込む事だってする。
 懐柔するのに手は抜かない。
 嫌だ嫌だと言われても押し切って、好きだよと繰り返せば困ったように口を引き結ぶだけ。
 彼の反応は熟知してる。
 そうなるように仕込んだのもまた自分。
 最低だ。
 それでも。

「―――あ」

 視界の端に、キラリ、と何かが光る。
 一つではなく、大量に。
 視線をそちらに遣れば、夜空に煌めきの雨が降る。

(…あぁ、そうか)

 今日はその日だったかと思い出し、見れなくて残念だね、と既に眠りの奥地に迷い込んだであろう息子の寝顔を見て、私は笑った。

「おやおや」

 何の偶然か。
 閉じられた瞳の端から零れた涙。
 それがまるで、ついさっき見たそれに、似てたから。

「叶うと、良いな」

 ふと心に浮かんだ願いをまだ降り続けていた流星群に語ってみた。
 あんなにたくさんあるんだ。
 一つの星くらい、聞いてくれても罰は当たらないだろう。
 そんな事を、思いながら。

「おやすみ」

 私の子。
 私の、愛しい子。
 どうかどうか、良い夢を。

(どうかどうか、どうか)

 君の涙を拭う役目が、私だけのものでありますように。





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 20091218
〈そう願って止まない事を、ねぇ、君は知らないでしょう。〉





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