約束不履行
[ 最後にもう一度だけ ]ドキドキする。
変だな、機械なのに。
あぁけれど、結局は機械と人間の合いの子だ。
ちゃんと人間らしい部分もある。
(知ってたのに、今更何を思うのだろう)
そんな、どうでも良い事を考えた。
それでもなくならない動悸に、もう良いと受け入れる。
消えないのなら受け入れればいい。
付き合っていかねばならぬのなら突き放すよりも抱え込んでしまえ。
(あぁそうして、あの子も抱え込んだのだっけ)
突き放しても突き放しても寄ってきた子。
行く所がないのだと泣いたあの子。
あの夜を覚えているのだろうか。
いや覚えては居ないだろう。
彼はあまりに小さかった。
今よりもきっと物覚えが悪いに違いない。
(それで良い、それで)
眼前を見据える。
世界の敵、僕等の敵、あの子の―――マグナの、敵。
だったら倒すしかないだろう。
あの子の生きる世界を残す為にも。
あの子の笑顔を守る為にも。
(……だからさ、マグナ)
最後にもう一度だけ振り返る。
……なんて顔、してるんだい。
(笑って、笑って。何時ものように、ほら)
君の笑顔を守りたいのに、そんな顔をしないでくれ。
そんな顔をさせるのは僕なのか?
酷い矛盾だ。
憎めもしない。
(ねぇ、マグナ)
呼び掛けながら、視線を引きはがす。
もう見ない。
もう僕は。
「…さようなら」
なんだかよく分からなかったけれど。
僕は、笑った。
嘘を吐いた事はないと言ったね。
だから僕を信じろと。
ごめんね。
ごめんね。
(最期にたった一度だけ、僕は君に嘘を吐く)
20100516
〈知れば君は怒るんだろうな、と思ったら、何だか急に笑えてきた。笑って、可笑しくて―――涙が、出た。〉