僕等は同居人
[ 絶妙スクエア ]「いてててッ」
「こら、大人しくしろ!」
痛みにジタバタと暴れるティーダを、フリオニールは無理矢理押さえつけて消毒していく。
「ティーダ、痛みから逃げようとしてまた新しい傷を作る、なんて面白い事はしてくれるなよ」
「あぁ、ティーダならできそうだね」
「酷いッス、クラウドもセシルも!」
「なら暴れるな!」
「だって痛いんだもん-!」
そう叫ぶティーダは可哀想だと思うが、それで放っておけばもっと痛い目を見るのは目に見えている。
だからフリオニールは心を鬼にしてティーダの傷という傷に消毒液を振りかけた。
「ひー…」
いてぇ…酷いッス…みんなみんな…ぐすん…。
終わった後、寝転び膝を抱えて三人に背を向けたティーダはつらつらと泣き言を言い始めた。
クラウドとセシルは放っておけば良いと言うが、フリオニールはそこまで鬼になりきれない。
しかし、とフリオニールは溜息を吐いた。
「何時から、こんなに傷をこしらえてくるようになったんだっけ…」
思い出そうとするも、これが中々に難しい。
年かな、と弱冠十八才のフリオニールは思い、やばいなぁ、と心底思いながら、「なぁ何時からだっけ」と他の三人に問おうとした、その瞬間。
「フリオニール。僕、お腹すいちゃったな」
「今日の晩ご飯は何ッスか? 俺も腹減って今すぐご飯食べたいッス!」
「買い出しを手伝おうか?」
セシル、ティーダ、クラウドの畳み掛けるような言葉に、フリオニールはもうそんな時間かと時計を見る。
まだ五時だ。
「ちょっと早いんじゃ…」
「そんな事ないッス!」
「え」
「ほら、僕たち一応育ち盛りじゃない。それに今思えば、おやつ食べてなかったんだよね」
「育ち盛り…? セシル、お前もう二十…」
「それは大変だな。フリオニール。早速晩ご飯を作るべきだと思うが」
「そ、そうかな…」
みんなから重ねて言われれば、何だかそんな気もしてくる。
フリオニールは小首を傾げながらも了承した。
「分かった。じゃ、ちょっと買い物行ってくる」
「あ、僕も行くよ」
「じゃあ俺とクラウドは、部屋の片付けとかして待っとくッス」
「分かった」
「気を付けてな」
「あぁ。行ってきます」
パタン
閉じられた音が聞こえ、足跡と声が遠ざかって漸く、ティーダとクラウドはほっとしたように息を吐いた。
「あー…良かった…」
「本当にな…」
崩れるようにティーダは床に座り込み、クラウドはソファに沈み込んだ。
そしてティーダは床を。
クラウドは天井を見上げて。
「…ティーダ」
「…はい」
「あまり無茶をするな」
視線の合わないまま。
そんな言葉を交わす。
ティーダは真摯になって聞くが、それでも零れた答えは。
「それは無理ッスよ」
あっけらかんとした、拒否。
「俺、ダメなんだよ。頭では分かってるんだ。やっちゃいけないって。どれだけ相手が悪くても、本気出しちゃダメだって」
クラウドはそれを表情を変えないまま聞いて居る。
ティーダは気にした風もない。
「でも、ダメなんだよ」
自分の手を見る。
絆創膏の貼られた手。
よく見れば手の甲の皮が分厚くなっている。
「…ダメなんスよね。フリオの事に関しちゃ、ほんと」
(あぁ今日も、この拳で殴ったんだっけ)
(明日もきっと、この拳で殴るだろう)
(明日も明後日も、自分が望むんじゃない、相手がそれを望むんだ)
「だからきっと、俺の怪我は治らないよ」
増えていくばかり。
傷付いていくばかり。
それでも良いよ。
だって守るって決めちゃったんだ。
自分の心にそう誓ったから。
「ごめんな、クラウド」
セシルにも出来れば言いたい。
こんな自分の我が儘に付き合ってくれている彼等にごめんねと。
それでも止められない事にごめんねと。
「………気にするな」
クラウドは漸くそれだけ言って、天井を眺めていた瞳を閉じて思う。
(不器用だな、と、思う)
自分も大概だが、ティーダはもっと不器用だ。
何時もの素直さは何処へと問いたいくらいに、彼への好意をひた隠しに隠してる。
曝して言ってしまえば良いのだ。
『君が好きだから何があっても一生守るよ』―――と。
隠して裏で守っても、彼は気付かない上にただ不信感だけが募っていく。
(あぁそれでもティーダがそれで良くて、フリオニールが笑っていられるのなら)
その間は、この不器用な恋を見守っていよう。
セシルもそう言って笑うだろう。
彼等が互いに一番良い状態でいられるなら、それで良いと。
だから。
「…ティーダ」
「…はい」
「掃除するぞ」
「…うんっ」
今日の晩ご飯、何ッスかね!?
さぁな。
まぁフリオニールは料理上手いから何でも良いけど。
それをフリオニールに直接言ってやれ。
え、恥ずかしいじゃないッスか。
………。
(さぁ早く帰ってこい)
クラウドは掃除をしながら、じっと外へ続くドアを見詰めた。
(二人じゃ、この部屋は広すぎる)
20100401
〈四人で生きてきたんだ。これからも四人で生きていく。〉