風の囁きに野薔薇は甘い夢に揺蕩う

[ (そうそれは、一瞬の安息) ]



 戦闘が続く。
 何時までだろう。
 何時まで自分は、仲間達は、剣を振り続けなければならないのだろう。

(…そんな事、言っていられない)

 分かっているのに。
 思って、しまう。

(もう、嫌だよ…)

 仲間が傷付くのも。
 自分の剣で傷付けるのも。

(戦いを終わらせる為に戦って、そしてまたその戦いが戦いを産んで…)

 堂々巡りも良いとこだ。
 けれど他に方法を知らない。
 自分は戦いにしか身を置いてこなかった。
 戦う事で全てを終わらせる事しか知らない。
 それでも誰も反論しないのだから、この方法は間違っていないのだとは思うのに。

(何時まで、剣を、振るうだろう)

 あぁそう思うのきっと疲れてるんだ。
 寝よう。
 寝てしまおう。
 そうすれば、もしかして、この戦いは夢の中の事かも知れない。





「…全く」

 起こさない為に、そっと視線だけを眠るフリオニールの顔にやる。
 これでもし触れたり近付けば、起こしてしまう可能性があった。
 眠りの浅い彼は何が引き金で起きてしまうか分からない。
 それにいち早く気付いたバッツは、それ以降、なるべくフリオニールと同じテントで眠るようにしていた。
 気付いていない他の仲間にそれを言う事は躊躇われたし、言った所でどうしろと明確に言える訳でもない。
 それならばとバッツは率先してフリオニールと一緒にいるようになった。
 その事でティーダやその他の仲間から余り友好的でない視線は貰うものの、彼等も漠然とフリオニールがバッツと一緒の時は気負わずに済んでいる事に気付いているのだろう、余り口うるさくは言わない。

「眉間の皺、すげぇよ」

 寝ている筈の彼。
 起きている時でも見せないそんな顔で、どんな夢を見ているのか。

「難しい事考えてんだろうな」

 戦闘で疲れているのだから、夢の中くらいは穏やかで優しい夢を見れば良いのに。
 バッツはそう苦笑し、自身も身を横たえる。
 じっとじっとフリオニールの顔を見て、その銀髪に手を伸ばしかけて、止める。
 難しい事を考えていても、眠る事は出来ているのだ。
 ならば今、起こしてはいけない。

「ったく、困った奴だなぁ」

 勝手に背負ったのは誰だと、仲間に聞かれれば詰られるか。
 バッツは笑う。
 この、見かけ以上に繊細な心の持ち主が、どうやら自分は思いの外好きらしい事に気が付いて。
 厄介だな、と思う以上に、知りたい、と思っている自分に気が付いて。
 でも、今は。

「ゆっくり眠れ。明日もきっと、戦いは待ってくれない」

 だから、と、一瞬口を閉じて、そうして其処から紡がれるのは、鼻歌程度の子守歌。
 聞けば彼と言えども怒るだろうか。
 知れば彼はどう思うだろう。
 子守歌など要らないと突っぱねるだろうか。

(…いや、きっと)

 少しだけ困った顔をして、けれど最後には、きっと優しく微笑んでくれるだろう。
 きっときっと。
 当然、そんなヘマはしないけど。

(あぁ、けれど)

 気付いてバッツの顔が明るく輝く。
 何度か自分自身に言い聞かせるように頷いて。

「やっぱ、フリオニールはそっちの方が良いよ」





 穏やかな顔。
 悪夢など知らないような少年の顔で、義士はゆったりと優しい優しい夢を見た。





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 20100701
〈守って欲しくないわけじゃない。ただ傷ついて欲しくないだけなんだ。〉





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