#D4DCDA

[ 色の雲が晴れない ]



 長かった一日が、終わる。





 みんながそれぞれに帰っていった後も最後まで部屋に残り続けたセシルは、部屋の主のライトと無言の時を共有していた。
 どちらもが喋らない。
 それは戸惑いのようにも、ただそうしたいだけのようにも見えた。
 兎に角彼等は喋らなくて、時はそろそろ日付を跨ごうかという頃になった。
 その時になって漸くセシルが動いた。

「じゃあ…僕も、帰るね」

 言って立ち上がったセシルは、何も言わず視線も合わないライトのその沈黙に微かに目を伏せて、玄関へと向かった。
 そしてドアを開けて出ようとした、その時。

「セシル」

 追ってきたライトに、呼び止められた。
 セシルは無言で振り返る。
 僅かな空白の後、ライトは口を開いた。

「…私はこれまでと同じように会社で、しかも日によっては夜も遅い。君に頼ってしまう事になるだろうが…」

 無表情の中に、遠慮が垣間見える。
 セシルは珍しいライトの表情に驚いて、柔らかく微笑んだ。

「うん。僕がフリオニールを出来るだけサポートするよ」

 全て、とは行かないだろう。
 同じ大学でも、セシルは外国語学部で、フリオニールは商学部だ。
 履修している授業も違えばクラブだって違う。
 それでも、出来るだけしてみせる。

「絶対に、気付かせないから」

 頼む、とライトは頷く。
 決意が滲んだその声と視線。
 互いのそれを確かめ合って、セシルとライトはおやすみと言い合って別れた。
 ぱたん、とライトの部屋のドアが閉まったのを背に聞いて、セシルは自分の部屋へと進めていた足を止めた。
 首を動かして一つのドアを眺める。
 其処は、明日帰ってくる彼の部屋だった。
 電気の点いていない真っ暗な部屋。
 明るい彼とは反対のその色。

(…本当に、そうだろうか)

 何処かで知っているような気がする。
 彼のこんな色を。
 偶に滲む暗い色を。
 それは、ふとした一瞬に。

(………考えすぎだ)

 頭を振る。
 こんな事を考えるのは、色々な事があって疲れている所為だ。
 きっとそう。
 …きっと。

(フリオニール)

 もう一度だけセシルは視線をそのドアへ遣る。
 変わらず部屋は闇が繁殖していて、だからセシルはただ願うしかない。

(明日にはどうか、光が差しますように)

 一瞬の黙想を区切りにセシルはまた歩き出し、今度こそ自分の部屋へと這入っていった。
 その一連の流れを、見聞きしている者が居た。

(………どういう、事だ?)

 廊下の死角、階段の壁により掛かって、クラウドは心の内に呟いた。
 セシルとライトの会話は、何処か引っかかる。

(気付かせない、とは何の事だ?)

 含みを持ったあの言い方。
 何かある。
 二人だけで隠さなければならないような、何か。
 俺達には言えない、何かが。
 それは不確かな勘。
 漠然とした考え。
 けれど。

「ライト…セシル…」

 クラウドは、遣る瀬無い気持ちを瞳に押し込めて呟いた。

「…お前達だけで、背負うな」

 それは、願いにも似た何かで。
 更ける夜の風に、似ていた。





 1日目 23:51





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 20100331





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