Ved or Ving

[ 目撃者は口を噤んで傍観する ]



 再会は唐突と言えば唐突。
 けれど、予定調和と言えば、そう言ってしまえない事もなかった。

「…久しぶり、かな。――君」

 幼い頃呼んだ名で呼べば、ふるふると首は横に振られて。

「今は真田です。――明彦は、もう居ません」

 それは余りにもあっさりとした言い分で、青少年に見られがちな変に気負い込んだ様子も、その特殊な環境を誇るという訳でもなかった。
 そして、過去を否定したというのに、哀しみすらなくて。

「…そうか」

 けれどどうして黒沢にその事で何かを言う事が出来るだろう。
 黒沢は彼がこうなってしまう原因を知っている。
 その現場にすら立ち会ったのだ。
 彼が絶望し絶叫したその時の目撃者だった。
 今よりももっと背が低くて細く頼りなかった姿。
 人と目線を合わせるのを怖がるように何時だって視線はあちこちに向いていたのに。

(変わったな…)

 嘗ての姿とは見違えるほどだ。
 姿勢は良く、瞳は相手の目を射貫くかのように真っ直ぐで。
 それだけならば大人びた風にすら見える容姿を、鼻の頭の絆創膏が辛うじて彼を年相応に見せている。
 それは誰かの入れ知恵なのか、彼の容姿に対する無頓着さ故か。
 どちらにしろ、人間、ずっと変わらない事など不可能だ。
 根本的な何かの姿を変えずに、ただ周りに幾層かの脱着可能な性質を貼り付けているのだとしても。
 だから変わる事が不思議なのではない。
 変わった事をとやかく言うのではなく、黒沢はただ、漠然とした不安を抱いただけだ。
 漠然と、その輪郭さえ掴めない不安を。

(それが、哀しいのか、淋しいのか)

 分からないまま、けれどそう言った類の感情だとは分かるから。
 黒沢は溜息を吐いた。
 自分が抱くには不相応な感情だと分かっている。
 その変化を受け入れている彼にしてみれば何とも身勝手な感傷。
 けれど、どうしても黒沢にはその不安は離しがたいものだった。
 たった一人の掛け替えのない存在の喪失で変わった彼の未来。
 それは彼が手に入れた力と、そして今此処で黒沢と再会している現実が証明している。
 彼は力を手に入れた。
 その力を発揮する為に今、黒沢に武器を求めている。
 虫も殺せなかった子どもが、その右手に銃を携えて。

(…変わったな)

 変わらざるを得なかったのだ。
 その瞳すら刃の(きっさき)に似るまでに。
 変わらざるを得なかったのだ。
 彼の哀絶は、それ程に深かった。
 だから。

「―――さぁ」

 黒沢は、ただ、彼の目の前に広げるしかないのだ。

「何が、欲しい?」

 真田明彦君。

(変わった彼を哀しいと思うその心を殺してでも、彼の眼前に、武器を)





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 20100501
〈彼を戦いに狩り出させたのは、過去か、それとも現在(いま)か。〉





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