語り継がれる事のない物語

[ 遺された者はただ。 ]



 戦いを物語るのには、少し時間が足りないのかも知れない。
 過去にするには早すぎて。
 けれど今と言ってしまうには遠すぎる。

 何年経てば良いだろう。
 思い出として語るには、あと何年必要だろうか。

 あぁしかし結局は今語ろうが何時か語ろうが、内容が変わる事は有り得ない。
 事実でしか、ないのだ。

 この手に掛けた異界の物。
 姿を変えた世界。
 終わりは直ぐ其処に鎮座して。
 喪った仲間がいた事も。

 全て全てが本当で。
 認めるのも嫌になるくらい、真実だった。
 偽りを探せば探すほど、綻びもない真だけを知る事になる。

 世界を見回した。
 自分が、自分と仲間が、何かを喪いながらも手にした未来。
 彼と彼が、いない、世界を。

 これで良かったのか。
 或いは、駄目だったのか。
 自分はどうすべきだったのか。
 静かに息をしながら考えた。
 答えが出ない事など、分かり切っていたのに。

 世界の破滅など知る人間は極々小数で、知らない人間の方が圧倒的に多い。
 自分たちの活躍を知るのはまさしく自分たちだけで、だからこそ、世界から消えた彼等が何かを守ろうとしていた事など理解されるはずもない。
 その死亡理由は改竄され、死人の口は何も語らない。
 生き続ける自分たちですら、それを語る事は許されず。

 何の為に戦った?
 誰も知らないまま始まって、誰も知らないまま終わった戦い。
 命すら賭けて、世界を守った。
 守りたいものがあったからだ。
 なのに今。
 その後に残った世界に、命を賭けた意味を見出せない。

 口を閉じた。
 息を殺した。
 目を閉じて。
 闇に沈む。

 もう自分は語るまい。
 思い返す事もない。
 次に目を開けた時。
 自分はただ前を向く。
 前を向いて、歩き続けて。

 意味がなくても。
 意義が分からなくても。

 生きていくしかないから。



 彼と彼が、いない、世界で。





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 20100501
〈その他大勢よりも、俺は――…。〉





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