見えない傷跡2

[ hallucination ]



 学校の帰り道。
 教会の脇を通りかかった時、わぁっと歓声が聞こえてきた。
 見ればどうやら結婚式をしているらしい。
 仲睦まじい男女が、友人知人に祝福されて、柔らかに微笑んでいた。
 幸せな光景。
 けれど僕には、胸が、痛くて。





「以前な、美紀が言ったんだ」

 時折、真田先輩は〈そういう〉喋り方をする。
 いつもいつも気になって、けれど、指摘したことはない。
 言うことは容易かった。
 きっと指摘された真田先輩も、あぁそうか、と笑って受け入れるだろう。
 でもそれでは駄目(﹅﹅)なのだ。
 だから言わないまま、「はい」と一つ、相槌を打った。

「将来の夢は、花嫁なのだと」
「…女の子らしいですね」
「そうだな。しかも相手はシンジだった」
「それは…」

 言葉に詰まる。
 なんと言ったものだろうと思案するうちに、真田先輩が言った。

「俺は、それでもいいと思った」

 静かに笑って、そう。

「美紀とシンジが結ばれて、シンジが俺の家族になる。そうなれば幸せだろうと思った。なのに、シンジはなんと言ったと思う?」

 緩く、首を傾げる。
 真田先輩は、一層深く笑って。

「馬鹿野郎、と言った」

 …あぁ、その気持ちは。

「いいと思うんだがなぁ」

 分かる気が、した。





 歓声が遠くなっていく。
 遠ざけるように歩いて歩いて歩いて、そうしてやっと立ち止まった時、ふ、と足から力が抜けて、蹲る。
 無意識に口元を手で覆っていた。
 そうしなければ、胸の内を全て吐き出してしまいそうで。

 『いいと思うんだがなぁ』

 先輩、先輩、―――先輩。

(それじゃ駄目です。いいわけがない。だって貴方以外)

 彼女も彼も、二人とも、もう――…。

「さなだせんぱい」





 それでも、だから(﹅﹅﹅)、僕は黙ったままでい続ける。

(失くし続けたあの人にまた失くせと)

 そう言う勇気は、僕にないから。





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 20131115
〈(例えそこにある幸せな幻覚(かこ)に、咽び泣いても。)〉





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