ヒーロー

[ 僕等が目指すべき夢の形 ]



 夕暮れ時。
 静かな風が流れる中で。
 先輩と、僕。





  泣く君の手を握り僕は空を見上げた





 修学旅行から帰ってきたその次の日から直ぐに始まった授業を終えて寄り道をしていた僕が、何処かへ行こうとしている真田先輩を町で見掛けたのは偶然の事だった。

「真田先輩」

 少し大きな声で呼び掛けた僕に真田先輩は直ぐに気付いて、駆け寄る僕を待ってくれた。
 先輩がこの時間帯に町なんかにいるのが珍しくて(だって先輩は何時も部活で下校時刻ぎりぎりまで学校だから)、どうしたんですかと口を開こうとした僕だったけど。

「いたっ」

 突然のデコピンに、その言葉は悲鳴に取って代わった。

「…何するんですか」

 痛烈な痛みに思わず手で其処を蔽って、ちょっと涙目になって先輩を見上げる。

「寄り道は校則違反だぞ。その罰だ」

 先輩はさも当然と言いたげに怒った顔をして、けれど僕の不貞腐れた様な顔を見てふっと表情を緩めた。

「怒るなよ」
「……だって、先輩だって…」

 寄り道じゃないですか、と言い終わる前に僕の目の前に一枚の紙切れが差し出される。
 それは。

「…寄り道、届け?」

 何ですかこれは、と視線だけで問うと、真田先輩は律儀にも説明してくれた。

「これは本来校則で認められていない寄り道を、予め学校側に許可を求める事で正当なものとする届出だ」

 だから俺は寄り道ではない、と勝ち誇った顔をされれば、何だかこの人が本当に年上なのか疑わしく思えてしまう。

(何時も何処か悟ったような感じなのに、ふと幼くなるんだよな)

 そんな先輩が嫌いでない事に、最近気付いてはいたけれど。

(あぁ、意外に好きかもしれない)

 嫌いではない事と好きは決してイコールではない。
 何時の間にかランクアップした感情に笑った僕を、どうした?、と真田先輩が不思議そうにしているのに気が付いて。

「何でもないです。ところで、先輩は今から何処へ行くんですか?」

 本当の事を言っても分からないだろうから軽くいなしてそう聞けば、真田先輩は少しだけ考えて。

「……お前も行くか?」

 唐突にそう言われた。
 何処に?、と聞く前に。

「シンジの墓に」

 先輩が、笑った。





 荒垣先輩がどういう人だったのか、僕は今でも分からない。
 ただ、態度の割りに優しい人で、厳しい言葉は誰かを思っての事で、真田先輩がとても信頼している人だと、そんな認識しかない。
 それがあまりにも客観的で外から見た荒垣先輩でしかない事に気付いた時、僕は少し自己嫌悪した。
 本来人に関わる事が苦手な僕だ、仕方ない、と思ってみた所で、その暗澹たる気持ちが吹っ切れるはずもなかった。

(だってそれがただの言い訳である事に、僕は気付いてる)

 地面を向いていた視線を、つい、と動かしたその先に、堂々と前を向いて歩く先輩の後姿。

(……僕はこの人になら、距離を縮めて行けるのに)

 真田先輩だけだった。
 話をするのが辛くない、傍に居ても落ち着ける、興味を持てる。
 それは多分、僕の無関心さと真田先輩の無頓着さの相性が良い所為だ。
 過度な接触も、深い付き合いも、僕と先輩は求めてない。
 それでも、ある程度は人に構ってもらいたい、そんな我侭さえ、僕らは似た者同士だった。
 だから他の人よりも、僕は真田先輩に好感を持ってる。

(むしろ、真田先輩、だけに)

 其処まで考えて、僕はまた視線を地面へと逃がす。

(あぁ、だからこそ、……僕は自己嫌悪したんだ)

 踏み込んだ付き合いが嫌いだ。
 それでも、そうするだけの価値を持つ人がいる事も知ってる。
 多分、荒垣先輩はそれに類する人だった。
 分かってたんだ。
 荒垣先輩も、僕と同じで、真田先輩と同じだって。
 それどころか、人との距離を測るのが多分僕と真田先輩よりも、ずっと上手い人だったのだ。

(それなのに僕は、荒垣先輩に近付こうとだってしなかった)

 その理由は知ってる。
 認めたくは、ないけれど。

(そんな僕が、荒垣先輩に会いに行くのって……)

 一歩一歩荒垣先輩の許へと近付く為に足を動かすのが何だかとても理に適わないような気がして、それが酷く心に重く圧し掛かる。
 小さく溜息を吐いて、ちら、と前を歩く真田先輩を見詰めた。
 何時ものように、ジャケットを担いで歩くその姿。
 其処に迷いはない。
 今から親友の墓に行くというのに、驚くほど普段通りの真田先輩。
 荒垣先輩が亡くなった時でさえ、真田先輩は強かった。
 傍から見て薄情だと思ってしまうくらいに、何時も通りで。

(ねぇ、先輩は悲しくないの?)

 僕は、少し悲しい。
 荒垣先輩を知ろうとしなかった自分が。
 真田先輩なら、知りたいと思う自分が。

(やっぱり、付いて来るべきじゃなかった)

 こんな気持ちで会いに行けない。
 こんな僕が行っても、仕方ないのに。

「っ真田先輩…!」

 そんな思いからか、思わず真田先輩を呼び止めてしまった。

「……どうした?」

 僕の声に反応して、ピタリ、と真田先輩は足を止めて肩口から僕を振り返る。
 その先輩に、僕は。

「あのっ」
「あぁ」
「…………………………後、どれくらい、ですか…」

 最後の方は誤魔化すように笑ってしまっていた。
 だから真田先輩は、僕が何を考えていたのかなんて少しも疑う風もなく、からりと笑って。

「もう疲れたのか? 心配するな、後少しだ」

 そしてまた、前を向いて歩き出す。
 何処か楽しげにも見えるその後姿に、僕はただ、そうですか、と呟いて溜息を吐いた。

(言えなかった…)

 そもそもどうやって言うつもりだったのだろう。
 言葉なんて用意していなかったのに。

(………良いや、行こう)

 先輩は後少しだと言う。
 なら、ぐだぐだ言ってないで行くしかない。
 行って、荒垣先輩に謝れば良い。

(荒垣先輩は、きっと首を捻るだろうけれど)

 それにしても。

(どうして真田先輩は、僕を誘ったんだろう)

 ぼんやりと、そんな事を思った。





 荒垣先輩はポートアイランドの端にある霊園の一角に眠っていた。
 其処へ来たのは、実は初めてだった。
 学校で葬儀はしたが、荒垣先輩の養い親との話し合いや亡くなった原因やらなんやらで美鶴先輩は駆け回り、そして僕達後輩は身近な人が亡くなった事にショックを受けて、お墓だとかに頭が回らなかったのだ。
 そして事が収束した後も、行くのを躊躇って延びに延びていた。
 初めて見た荒垣先輩のお墓は、とても綺麗に掃除してあった。

(美鶴先輩は忙しいだろうから、まめには来られない…なら、真田先輩が…)

 考えた時、一陣の冷たい風が鼻先を通っていった。
 思わず大げさなくらい震えた僕に、先輩が笑った気配。
 でも、怒る気にはなれなかった。

「お花…」
「え?」
「お花、持って来れば良かったですね」

 手ぶらで来た僕達には、荒垣先輩の墓前に置く献花がなかった。
 綺麗にされているだけに、少しだけ寂しい。
 そう言った僕を、また真田先輩が笑った。

「……何ですか」
「いや…」
「じゃあ笑わないでください!」

 むすっと頬を膨らませた僕に、真田先輩は今度こそ爆笑した。

「何なんですかっ!」

 怒っても先輩は涙を浮かべて笑った。

「わ、悪い悪い」

 ようやく笑いが収まった頃には僕の身体は冷たくなっていた。

「まさか、お前が花なんて言うとは思わなくて…それに、シンジに花、っていう図が尚更似合わなくて。そしたらお前が分かりやすく拗ねるから」

 また笑い出しそうな先輩を睨めば、わざとらしい咳払いで笑みを収めた。
 そして、ちらりと僕を見て言う。

「実は気が進まなかっただろう。此処に来る事」
「!」

 思わず驚いた顔をしたのが決め手になったらしい。

「分かりやす…っ!」

 また爆笑し始めた先輩は、けれどそんな僕を咎める気はないらしい。
 そしてまた一段と冷たくなった頃に笑みを収めて、言葉を零した。

「シンジがな、気にしてたんだ」
「……?」
「お前がシンジを近付き難く思ってる事じゃない。お前が、俺以外に近付こうとしない事をだ」

(―――あぁほら、やっぱり)

 真田先輩の言葉は、ストン、と僕の心に落ちてきた。

(荒垣先輩は―――そういう人だもの)

 荒垣先輩は知ってたんだ。
 その上で、無理に近付こうとしなくって。
 けれど、ちゃんと必要な事は教えてくれた。
 何時だって。
 距離の取り方を、一度だって間違えた事なんてない。

(敵わない…敵う訳が、ない)

 共闘はするけれど誰にも頼らない真田先輩が唯一頼る相手。
 そんな荒垣先輩に、僕なんかが勝てる訳がない。

(僕は、どうしたって荒垣先輩みたいには、なれない)

 真田先輩から全幅の信頼を得るような、そんな人間には。

「……凄いな、荒垣先輩は」

 小さく苦笑してそう言えば。

「シンジだからな」

 真田先輩が胸を張った。
 それが無性に可笑しくて。
 今度は僕の方が笑って、そしたら真田先輩も声に出して笑い出す。
 結局二人で大笑いだ。

「……って、お墓の前でこんなに大笑いしてたら荒垣先輩だって気分悪くしますよ」

 少なくとも真田先輩は二度も爆笑している。
 その他にも笑った事を含めれば、パンチが飛んできても良さそうな事だ。

「ま、確かにな」

 それでも顔は笑いながら、真田先輩はお墓を見下ろした。
 その眼差しは軟らかい。
 幼馴染や親友に向ける視線以上の感情が入っているように僕には思えた。

「先輩にとって、荒垣先輩って、どんな人でしたか?」

 だから素直に聞いてみた。
 分からないから聞いた、その程度の疑問だ。
 それを、真田先輩はこっちが申し訳なく思うくらい真剣に悩んで、そしてポツリと言った。

「そうだな…ヒーロー、みたいな感じか?」

 思ってもみなかった答えに、僕の目は点になる。

「ひ、ヒーローですか?」
「あぁ」
「……またなんで」

 至極当然と言う風に頷かれたから、笑う事も出来なくてそう聞き返した。
 そうすれば、笑みも浮かべず返された答え。

「シンジと俺は同じ施設の出だという事は知ってるな?」
「あ、はい」
「その頃の俺は、ずっとシンジに守ってもらってたんだ」

 いじめられっ子だったと、真田先輩は言った。

「年の割りに小さくて、妹と同じくらい細かった。そしてこの髪がな、また小さな子どもには珍しかったんだろう」

 艶を抑えたような白に近い銀髪は、確かに珍しい。
 特異な者は嫌われるという論理はどの年代でも通ずるものだ。
 そして、特に子どもは自分と違う者を嗅ぎ分けるのに長けている。
 小さな子どもほど無邪気にそれをやってのけるから、やられた方は尚辛い。

「怪我をしない日はなかった。泣いてばかりだった。そんな時、シンジが施設にやって来たんだ」

 その頃を思い出したのか、先輩はこの話題になって初めて笑った。

「シンジは本来誰かと特別関わるような性格じゃない。関わらないように避けていると言っても良い。それが何故かは俺も分からない。でも、施設に来る前からの癖のようだった。でもそれ以上に、シンジは曲がった事が嫌いだったんだ」

 大きな子どもが小さな子どもを苛める事。
 強い者が弱い者を苛める事。
 その全てに該当した真田先輩を、荒垣先輩は助けてくれたのだそうだ。

「助けられた後、俺も怒られた。黙ったままやられっ放しになってんじゃねぇ!、って」

 言いそうだろ、はい、と言う会話の後、先輩は一つ息を吐いて、でも、と言葉を続けた。
 僅かな翳が、その整った顔に落ちる。

「それでも、シンジは俺を助け続けてくれたよ」

 守ってくれた、大きな背。
 苛めてくる誰かに勝つ為にと言うよりも、その背に近付きたくて沢山牛乳を飲んだ。
 引っ張ってくれた、力強い手。
 何時かそうなれれば良いと、時折シンジの手と自分の手を比べっこした。
 自分も誰かを守れるようになりたいと思った最初の切欠は、シンジだった。

「その頃俺が何かをし始めたら、それは全部シンジがやっていた事の真似だった」

 それくらいに、憧れていた。
 正にテレビ画面の向こうの、ヒーローのように。

「だから、シンジは俺のヒーローなんだ」

 今さっき差した翳が嘘だとでも言うように、明るく笑ってみせた先輩。
 それを見て、僕は。

「真田先輩」

 ん?、と首を傾げる先輩の顔色は変わらない。
 けれど気付いてしまった。
 僅かに下げられた眉の意味。
 硬く閉じられた唇の意味。
 何時もより少しだけ弱い、視線の意味を。
 だから責任感にも似た思いで僕はそれを口にする。

「僕は、泣かない事が強さだとは思いません」

 ぴくりと動く肩。
 けれど表情は動かない。
 間合いを取るように、視線だけが鋭くなる。
 それでも僕は怖くなかった。

「荒垣先輩は、真田先輩にとって大切な人でしょう?」

 少しの間があって聞こえた小さな声は、掠れた肯定だった。
 それに満足して、僕は硬かった表情を笑みに変えた。

「大切な人が亡くなれば哀しい、それって、普通の事です」

 だったら。

「涙を堪える必要が、何処にあるんですか」

 そう言った僕に先輩は少し表情を緩めて、けれど、頷こうとはしなかった。

「…それでも、必要がある時もある。特にあの時、オレは泣く訳にはいかなかった」

 あの時とは、きっと荒垣先輩が亡くなった夜。
 みんながみんな、どうして良いか分からなかった。
 美鶴先輩でさえ、立ち直ったのは何時もを考えれば充分に遅かった。
 確かにあの時真田先輩がしっかりしていなかったら立ち尽くしていたままだっただろう。

(でも、その後は?)

 涙を堪える必要があったのはその時だけだ。
 もしかしたらその後たった独りで泣いたかもしれない。
 けれどそんな事僕は知らない。
 何より。

(今だって本当は泣きたいくせに)

 そう気付いてしまったから、僕は真田先輩の言葉を一刀両断する。

「大人ぶらないでください。僕は知ってるんですから」

 先輩が、意外に子どもっぽいんだってコト。

 そう言えば、真田先輩はちょっと驚いた顔をして首を傾げた。

「…そうか?」
「えぇ、そうです。気付いてなかったんですか? 何なら太鼓判押してあげます」

 近付く度に見えていく先輩の素顔。
 大人なようで実は違った子どもらしい性格は、僕を落胆させはしなかった。

(そんな先輩が好きなんだ)
(そんな先輩だからこそ、近付きたいと思ったんだ)
(荒垣先輩に勝ちたいなんて、思ったんだ)

 それら全てを心の中に閉まって、言うべき言葉だけを選び取る。

「だから、泣きたい時には泣いたって、良いじゃないですか」

 僕の言葉に笑ったのか、それともただ力が緩んだのか。
 兎に角先輩は、へにゃ、と笑うように顔を崩して。

「―――……そう、か…」

 そう一言呟いて、ようやく、泣いた。
 それは見ていないと分からないほどに、静かに静かに流れてく。
 声を殺している訳でもないのに、真田先輩は決して声を上げなかった。
 だから涙だけが小さく笑う頬を滑り落ちていく。
 その真田先輩の手が、こつん、と僕の手に当たって。

「………」

 きゅ、と繋いでみた。
 僕よりも少し冷たい手が僕の手の中でぴくりと動いて、そして少し迷うような間の後、小さく握り返してくれた。
 その感触を逃がしちゃいけない気がして、僕もまた握り返して。
 空を、見上げた。

(………良かった)

 帰らなくて良かったと、此処に来て良かったと、心から思う。
 帰ってしまったら、真田先輩は此処で一人でも泣く事が出来なくて、そんな自分にも気付けなくて、ただ悲しみをまた心の中に増やすだけだったのだろう。
 繋がれた掌を握り締めながら、その温かさを感じ取る。
 多分きっと、これがその成果だと思った。

(―――あぁ、そうだ。此処に来た目的を、果たさなければ)

 思い出して、僕は少し涙の浮かんだ瞳でまるで人を探すように、視線を空に巡らせた。
 そして少しの落胆の後、視線を空から引き剥がしてある場所に向けた途端、その僅かな労力の無駄を笑った。

(荒垣先輩)

 探し人は、ずっと其処に居たような自然さで、自身の墓に座っていた。

(………人を好きになるって、難しいです)

 独白にも似た言葉に、視線の先の人は何も返さない。
 それでもちらりと視線をくれた。
 それで、充分だった。
 僕は勝手に言葉を吐いていく。

(人生で最初に好きになった人が真田先輩だった僕は、きっととんでもない初恋をしているのでしょう。だって、相手は天然で鈍感で恋愛にまるっきり興味なくて、そして、僕が絶対に勝てない人に心を預けてしまっているような人です。それはつまり荒垣先輩なのです。……知ってたでしょう? 真田先輩ばっかりが荒垣先輩に懐いているようで居て、その実、どっちもどっちだという事に気付いてるのは、多分僕と美鶴先輩くらいではないでしょうか。だからこそ、僕は荒垣先輩に近付けませんでした。幼稚な嫉妬です。恋敵とは仲良くなれない、なんて、そんな下らない理由だったのですが。無関心が取り得の僕が、まさか此処まで誰かに心を傾けるとは思っていませんでした。恋って難しいですね。後悔ばかりです)

 ねぇ、先輩。

(ごめんなさいって、今言っても許されますか?)

 返事は期待していなかった、―――のに。

『許さねぇ』

 伏せがちになっていた視線を、ぱっと元に戻す。
 荒垣先輩は、笑ってた。

『許して欲しかったら、今度はお前があいつのヒーローになれ』

 それが条件だと、そう言って荒垣先輩は姿を消した。
 何処までもあの人らしい、そう思わせるような潔さ。

(僕が、真田先輩のヒーローに…?)

 考えなくとも分かってる。
 解決不可能に近い難問。
 荒垣先輩が僕になれないように、僕には荒垣先輩になる術がない。
 そんな分かりきっている理論をまた構築していこうとする思考を押し留めた。
 解けないと分かってて尚、なれないと分かっていて尚、許されたいと、そうなりたいと、願う自分がいる事を僕は知っている。
 だから。

(……頑張ります)

 僕が言う言葉は、それしかない。
 そして。

(ありがとう、ございました)

 辛うじて零れずにいた涙がぽこりと生まれて堕ちて行く。





 夕暮れの墓標の中。
 手を繋ぐ二人。
 一人はヒーローを喪い、一人はヒーローになる事を誓った。
 そんな哀色の情景の中。
 先輩と、僕。





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 20090401
〈誰かの英雄になりたくない。ただ貴方の英雄でありたい。〉





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