just like a knight

[ 世界に歯向かう犬も飼い主には吠えない ]



 空を眺める。
 何度目だろう。
 面白い事など何もない。
 雲はただ空を泳いで、風はその後押し。
 空自体が変わる事など、色以外になく。
 だからこそ面白い事など何一つない。
 ならば止めれば良い。
 そう言う問題でもないから困ってる。
 自分は一体どうすれば良いだろう。
 見切りをつけて空から視線を外し絶縁してやろうか。
 空はそんな俺を裏切り者と蔑んで上から見下すのだろう。
 それすらどうでも良い。
 逆に愉快だ。

(怒るなら怒れ。お前に怒られても怖い事なんてない)

 空が如何に世界をくるんでて、風で人を脅かし雨で地を潤し雪で心を動かそうとも。
 俺には関係のない事だ。
 そんな事より。
 と、俺は空に三行半を叩き付けて呆気なく視線を引きはがす。
 そして見た先は右隣。
 まず視界を埋めたのはふわふわとした白の世界。
 それはたんぽぽの綿毛みたいな、柔らかそうな銀の髪だった。
 もう少し下に視線を移せば、それと同系色の眉毛と睫。
 睫が時折隠す瞳も、それと同じ色。
 身長差の為か、僅かだけ見える膨らんだ白い頬はけれど少しだけ赤みが差していて、幼馴染みの彼が依然怒っている事を表していた。
 それにぴくりと動いたのは視界だったのか俺の指だったのか。
 分からないまま、呼び掛ける。

「…おいアキ」

 その声が震えていると誰も気付かなければ良い。
 聞く人間などいないと知りながらそう願って、まだ膨らみ続けている頬を視線でなぞる。
 幼馴染みは、それでも視線を此方へはやらない。

「アキ」

 空に絶縁状を叩き付けた時の勢いなどない。
 愚かしい程可笑しい程その声は無表情を演じ続けて、けれど内心、冷や汗が吹き出していると誰か気付いてくれと助けの期待できない現状を理解しつつそう零す。

(一体自分はどうしたいのか)

 気付かなければいい。
 気付けばいい。
 どっちだ。
 自分は一体どっちを望んでいる。
 分からないから、こうして為す術なくおろおろと幼馴染みの名を呼び続けるしかないのだけれど。

(情けない。馬鹿らしい)

 それでも。

「帰ろ、アキ」

 手を差し伸べる。
 自分からは握ろうとだってしない。
 こっちを向いて、向かなくても。
 幼馴染みがこの手を掴むのをただ待って。
 待って。
 待ち続けた。
 幼馴染みは何も言わず、その俺の手も見ない。





(卑怯だ)
(卑怯だ)

 けれどそれは、俺の行動を優しさと取り違えて怒り続ける彼ではない。

(卑怯、だ)

 卑怯なのは紛れもなく、何時だって幼馴染みに決定を委ねている自分自身なのだ。





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 20100601
〈(あぁ、空が堕ちてきそう)〉





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