偽愛

[ 彼が、ちらつく ]



 知ってるのはまやかしの熱。
 感じるのは、冷めた、歓喜。





  気付きながら、けれど止められない想い





 それは唐突に始まった。
 本当に何時の間にかとしか形容できない。

 誘ったのは相手。
 乗ったのはオレ。

 組み敷いたオレの下で、相手が美声で啼く。

(それすらも、嘘)





 感じる筈の熱は何処となく冷めていて
 ただ獣のように、ただ機械的に
 そんな関係を繰り返す。

 愚かだと
 馬鹿馬鹿しいと
 分かっていて、尚
 高まる冷めた熱。





 其処に愛など好意の最上に位置するものなどなく
 ただ本能のまま
 ただ自分の欲のまま
 相手を貪るオレ達。





(何故そんな関係ができたのか)

 相手の瞳に自分が映っていない事を知りながら
 その関係が無くなる事なく
 ただ何もかもを忘れたいかのように
 連日連夜続くこの行為。





 そして気付くのだ。
 弱い自分に
 熱だけを求めた
 馬鹿な自分に。
 欲しかったのは
 手に入れたかったのは

(偽りの愛なんかではなかったのに)





 何時か気付いてくれるかもしれないと抱き続けた。
 けれど一度としてその視線がオレを捕らえた事などあっただろうか。

(オレを見た事が、あっただろうか)

 その視線は何時も誰かを探してた。
 オレじゃない誰かを想ってた。

(そんな事)
(知っている筈だったのに)





 確かに感じる痛みを誤魔化して
 頬に流れる水をシャワーで隠して
 思い出した面影に
 目を、背けた。





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 20060622
〈愛の不一致。〉





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