hide and seek

[ かくれんぼ(霜花落処) ]



 休憩時間、トイレから帰ってくるとみんなと離れて影に隠れるように佇む栄口を見た。何をするでもなく、ただ樹の幹に寄りかかっている。
 何してんのと声をかける巣山に、隠れてんのと笑って応える栄口。
 誰から?、と巣山は首を傾げた。テスト期間が近いこともあって、ほとんどのチームメイトが日頃(じゃ)れるように遊ぶこの休憩時間を、これからの日程、どのように過ごすかを相談するのに充てていた。抜けだそうと画策する田島は花井に押さえつけられ、三橋も阿部と泉に両脇を固められて項垂れている。よってグラウンドには今、人っ子一人駆け回る者はいない。となれば当然、栄口を追う鬼もいない。
 その巣山の視線を正しく理解して、栄口は肩を竦めた。どこか冷め切ったその仕草に彼らしくないと巣山が驚きながら見ていると。

 鬼がね、鬼って自覚してないかくれんぼなんだよ。

 と、よく分からないことを言う。なんだそれ、と無意識に零していて、栄口はそんな巣山をちらりと見上げて、また笑う。その笑みを見て、巣山は背筋がぞくりとした。踏み込んじゃいけない、探し当ててはいけないものに出会ったかのような危機感が躰を駆け巡り、紅い警鐘が頭の中で鳴り響く。練習で流した汗が、急激に冷えていく。栄口はそれを知ってか知らずか、傍目からはただ穏やかな顔で。

 …絶対、見つかっちゃいけないんだ。

 だから巣山、内緒ねと、自分がここにいることを言ってくれるなと栄口は尚も笑ってひそりと言う。無垢に純粋にあどけなく、子どもが大人に口止めを強請るように。

(…でも、な、栄口)

 お前を追いかけてる奴は、誰一人いないんだぞ。





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 20121231
〈片想い人の心象風景。この恋を気取られてはいけない。〉





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