視線の先、首の角度




 風間さんのそれ、癖だよね。
 …は?
 
 微かに滲む笑いと共に吐かれたそれに、一瞬、間が空いた。それが何故だかとても気に食わなくて、風間の声は少し棘を孕んだ。眉間にも怪訝と言うよりは苛立ちの皺。
 それをしてやったりとでも言うように、太刀川はそれまでも浮かべていた口端の微笑を尚更深めて。

 風間さん、考え事する時いつも同じとこ見てる。いや、とこって言うか、同じ高さ、か。

 不思議、とまた小さく笑いをくゆらせる太刀川は、先程からと同様、風間を見ない。見ないまま言って、見ないまま、笑う。
 気に入らない。ひどく、そしてとてつもなく。けれど、そう、そんな、ことよりも。

(…あぁ、そうか。)

 思う。

(これは――…。)

 思って、太刀川から視線が逸れる。自身の足元に視線が落ちて、今度は空に上昇する。それはある所で自然に、それでいて不自然に、ぴたりと止まって動かない。それ以上空に向かうことはなく、足元に返ることもない。おとがいはそこで固定され、見るものもないのに逸らすことを嫌がった。
 そこを見続けていたいんじゃない、そこに目を向け続けていたかったのだ。いつか近付いた筈の、届いたかもしれない、目線の先の――…。

 …あぁ、嫌だな。

 嘯けば、躰からふっと力が抜けた。首がことりと下を向く。それだけじゃ足りない気がして、何もかもを捨てるように瞼さえ閉ざしたのに。

(…嫌だな。)

 首筋の痛みに似た熱が、余計、消えない。

(首がまだ、貴方への角度を覚えてる。)





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 20170915
〈何かに迷うと、兄を見上げるのが癖だった。…そんなことを、今更思い出すなんて。〉





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