未完の処女




 騎士の家系に女はいらない―――少女がそう云われたのは、三歳の誕生日の朝、初めて父に面会することを許された日のことだった。
 鮮やかな蒼と薄く棚引く真白の雲の広がる空が窓を額縁に見立てた絵のように美しく、対してそれを背に傲岸に椅子の上で胸を逸らし顎を上げた父の様は陰湿で、とても色づいた世界に生きているとは思わせなかった。
 覚えておけと父はまた云う。そう口を開くのも嫌だという顔を隠さないまま、少女を見下したまま、彼は。

「精々できるだけ高い地位にいる貴族に嫁げるよう、礼儀作法や一通りの芸術は身に付けておけ」

 使い道はそれだけだと云い捨てて父はもう二度と少女を見なかった。少女は暫く其処に佇んだ後、ひっそりと部屋を出た。ドアに背を預けて、座り込む。
 哀しいとは思わなかった。薄々感じていたことだ。自分の使い道、自分の将来、どう思われているのかなんて。
 ただ、虚しいと思った。言葉にされて、直接云われたことで、今まで懸命に目を背けていた心の穴に、気付かされてしまった。

「      」

 少女の小さな唇が動いて、何かを紡いだ。けれどそれは世界に生まれることなく、音のないまま朽ちて消えた。少女は座り込んでいた。ぼぅっとしたまま、何処かを見たまま。
 そうして全てを、放り出した。





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