春の雨




「それで、今のところ順調か?」
「あぁ。何事もなく過ごせている」
「それはよかった。彼奴がお前に無体を働くようなことがあれば、遠慮なく云うといい。何とかする」
「はは…」

 アルトリアの言葉に苦笑う。彼女なら本当に何とかしてしまいそうで怖い。しかし…。

「なぁ、アルトリア。最近ギルの様子、変じゃないか?」
「何時ものことだろう」
「アルトリア…」
「…冗談だ、限りなく本音には近いがな。そうだな、私も薄々感じていた。元気がない」
「やっぱり…」

 近頃ちゃんと眠れてないらしい。心配する度に大丈夫だと返されたが、日に日に疲れが見え始めた。授業中に眠ることも増えたように思う。

「俺が何か煩わせているのだろうか…」

 居候をしだした時からだと気づいているだけに、その思いは強い。やはり元々引っ越す予定だったマンションに行けば良かったとも思う。

「気にするな、ディル。お前が慕い、お前を誰よりも想う彼奴のことだ、お前を不調の原因にあげる訳がない。そうである筈もない」
「そうだろうか…」
「あぁ。彼奴はじっと耐えるような奴ではないし、抱え込む性質でもない。彼奴のことだ、何れお前に何か打ち明けるだろう。お前はただそれを待てばいい。気にし過ぎてお前まで体調不良になれば、目も当てられない」

 そうだろう?、と頭を撫でるアルトリア。自然、強張った顔が解れた。

「……そうだな。何時もありがとう、アルトリア」
「なんの。お前の為なら言葉も心も最善も尽くす。それだけのことだ」

 笑うアルトリアに、俺も笑んで返す。彼女が幼馴染で、本当に幸せだと思った。





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