涙雨
「此処がお前の部屋だ」
案内されたのは、一人で使うには勿体ないほど広い部屋だった。そもそもこの家自体が広い。ギルの家には何度も来ていたが、中を歩いてみれば外観以上に広く感じて驚いた。何より驚いたのは。
(……部屋が、別だ…)
誘われた時から危惧していたことだ。もしかしてギルと同じ部屋で生活することになるのではと。しかしそんな心配を他所に、ギルはよほど俺に気を使ってくれたらしい。部屋の窓から態々移し変えた薔薇が見えた。
「美しい薔薇だな」
「気難しい花だが、そう云ってもらえると嬉しい」
「気難しいかは知らんが、美しさはお前に似たな」
……本当に別々の部屋でよかった。心底思う。こんなことをさらりと云ってしまうギルと同じ部屋なんて、心臓がいくつあっても足りない!