背中越しの関係
[ 恋はしない ]壁に背を付けて、ルキア。
その前に、俺。
俺を見上げるルキアが、小さく、笑った。
「…お前を真正面から見ると、不思議な感じだ」
「そうか?」
「あぁ」
何故だろうな、と、ルキアは言った。
「多分、お前とは、背中越しの関係なのだろう」
「…なんだ、それ」
「分からんか?」
「分かんねぇ」
なんとなく、そんな感じがするんだ。
ルキアは柔らかく瞳を細めた。
「お前と私は、きっと誰よりも近い存在なのだろう。けれどそれは、肩を並べてではなく、顔と顔をつきあわせているからでもなく、きっと背中をぴたりとくっつけてるからだと、思ったんだ」
「……正面からじゃ、いけねぇのか」
「無理だ」
一欠片の慈悲もないその言葉は、優しく優しく零された。
「お前も私も、互いが一番ではない。だからこそ背中越しなのだろうし、だからこそ、背中越しで良いのだろう」
その言葉に、分かる気がする、とは、悔しいから言わなかった。
「交わらない視線、見えない顔。…それでも私はお前が見ているものを知るだろうし、お前は私がどんな顔をしているか分かるだろう」
それでも、互いが一番では、ないから。
「それで良いのだろうよ、一護。それが、良いのだろう」
そして何時か、その背が離れ、互いが互いの道を、つまりは正反対の道を行こうとも。
多分それで、良いのだ。
「私はこの距離が嫌いじゃない」
「………」
「お前もだな、一護」
「………あぁ」
あぁそうだ。
違和感ばっかりだよ、お前の正面からの
横顔も違う。
髪ばっかり見える後頭部も何か違う。
(俺達は、俺達を見ちゃいねぇ)
何時だって外を向いていて、外ばかり気にしてて、自分も相手も後回し。
けれどその頃には互いを冷静に見るのも馬鹿馬鹿しくて、肩越しに「大丈夫か」「大丈夫だ」と会話するだけで満足しちまう。
そしてまた、外の世界に目を光らせる。
背中合わせのまま、一度だって振り返らずに。
「…馬鹿みてぇ」
俯いて思わず漏れたそれに。
「本当だな」
ルキアもきっと頷いて。
(そう言った顔が笑ってるんだろうと疑わない俺は)
(きっと最後までこいつとは恋が出来ないのだろうと思った)
20100224
〈それで良い。それが良い。言い聞かせるようだと思ったのは、多分俺の気の所為で。〉