君じゃなくちゃ

[ 無自覚 ]



「俺と夫婦の真似事をするのなら、ハルヒとすれば良い」

 なぜそんな言葉が出たのかを考えたくはない。
 恐らくもううんざりしていたのだ。
 何かにつけて母さん母さんと呼びかけられる事に。
 いきなり始まった疑似家族。
 それに流されてきたが、もううんざりだと。
 きっと今更ながら思ったのだろうと言い聞かせて。
 きょとんと何も分からぬ風な顔をして此方を見る環に更に苛立ちを募らせながら、言葉を繋げた。

「其方の方がお前にしても良いだろう?」

 嫌な言葉だ。
 嫌な響きだ。
 そう思ったのに、止まらない。
 自分の感情が制御できない事ほど情けない事はないと知っているのに。
 そう自己を嫌悪し、そして環にも嫌悪する。
 そんな俺に、環は少し考える風に瞳を伏せて。
 少しの後、何だか困った風に、笑った。

「……俺は、ハルヒを幸せにしてやりたいと思う」
「何をしても。何があっても。何に妨げられたって」
「ハルヒが俺の腕を擦り抜けて何処かへ行く事を選んでも、俺はそれがハルヒの幸せに繋がると思ったなら、見送ってやる。手放してやれる」
「…けどな、鏡夜」

 呼びかけて、お前は駄目だよと、環はそれはそれは優しく言う。

「手放してやれない。それがお前の幸せに繋がったって」

 お前を不幸にしても、俺はお前を離せないよ。

 …それはなんて尊大で、傲慢な。
 知らない振りして、分かっていない顔で、一蓮托生は夫婦の鉄則だろう?、と笑った環。
 だからお前が母さんなんだよ、と、何でもない事のように、言うから。

「…最悪だな」

 俺も笑ってそう言ってやった。
 他意は、ない。





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 20091226
〈まだ恋という言葉を知らない頃。〉





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