#FFD800
[ 信号が黄色に変わった ]嫌だと己の声が叫んでる。
その拒絶の対象も恐怖の理由も絶望の意味すら知らない癖に。
カフェの一角に座る二人の間を、重い空気が漂っていた。
どちらもがどう話を切り出せば良いか分からず、そして現実を受け止める事に躊躇っていた。
けれど、こうしていても埒があかない。
ライトは一口冷めかけたコーヒーを飲み、向かいに座るセシルへと視線を遣った。
「セシル」
その声に大丈夫かと心配するような響きを感じ、セシルはぼんやりとしていた意識を掻き集めてライトの言葉に頷く事で返事をした。
そしてぽつりと言う。
「…みんなに、どう話そう」
みんなとは、コスモス荘の住人達。
他人ばかりで親しいと言っても矢張り遠慮が介在する、そんな一般的な近所付き合いをしていたなら、こんなにも悩む事はなかっただろう。
例え住人の一人が数日間不在であっても、気にはしても心配する人間はそう居ない。
しかし、家族のように接するコスモス荘の彼等は、たった一人の僅か一日の不在でも、些か度を超えた心配をする傾向にあった。
それは彼等の繋がりの深さと、そして大半が未成年だからだろう。
だから彼等は何処かで外泊する場合、帰りが遅くなる場合には、必ず誰かに連絡する事が暗黙の了解となっていた。
そうして保たれている秩序を突然壊す事は出来ない。
それに、二人には彼等を騙す術がなかった。
彼が所属するアーチェリー部の突然の合宿と言ったところで、同じ大学のクラウドやバッツに一日と経たず、もしくはその場でバレるだろう。
また、意外な程交友関係の狭い彼は、誰かの家に泊まりに行った事が今までにない。
突然泊まりに出かけたとするのも、不自然だった。
…それよりも。
「……嘘は、吐きたくない」
その一言に尽きた。
ライトの言葉にセシルも頷き、なら、と言葉を繋ぐ。
「本当の事を言うしか、ないよね」
覚悟を決めた瞳。
それにライトはあぁと頷きながら、セシルの芯の強さを垣間見てほっと息を吐く。
年長者の部類に入るライトとセシルは、常に何かと頼られる。
ライトはその見た目から分かる有能さに、セシルはその外見の優しさ故の話しやすさに。
よって二人は無意識的に自分達がしっかりしなければと自身を律する傾向にあった。
それがこのような事態になっても変わらない。
セシルの繊細な心を思えば、それは頼もしくもあり、少しだけ、痛ましくもあった。
それを口にも表情にも出さず、ライトはセシルをじっと見て。
「君がフリオニールを見付けた時の状況を、教えてくれないか」
その時の事を思い出してだろう、僅かにセシルの表情が歪んだ。
それでも、ライトはセシルから目を逸らさなかった。
ライトの強い視線を感じながら、セシルは観念するように目を閉じて。
ゆっくりと、震える息を、吐き出した。
1日目 11:00
20100106