追憶

[ 戻れない。進めない。どこにも行けない。 ]



 泥にはまった足のようだと、重い足を引き摺りながら思う。
 そうしてようやく辿り付いた自室とも言えない室。
 褥に身体を投げ出して目蓋を閉じ、息を吐いた。
 それに震えが加わり、湿り気を帯びるまでに時間はかからなかった。
 それでもなけなしの矜持を掻き集めて、声を噛み殺す。
 闇の中、自分の存在を知れるのは、その唇と心の痛み。
 それがなければきっと自分の存在などこの世から消してしまえたのに。
 痛みはなくならない。
 ずっとずっとあり続ける。
 声を殺す為に何度も唇を噛んで。
 痛みを殺す為に心を殺した。
 それでも自然と自分は生きていた。
 生きる事を諦めてしまえば、それはどんなにか良いだろうと惹かれつつ。
 それでも、私は。

「  」

 彼の名を呼ぶ。
 それは、追憶の名に等しい。





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 20090509
〈夢が全てでないと、分かっていたはずなのに。〉





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