sora

[ a fixed idea ]



 ねぇ劉輝、と兄上が優しく声を掛けてくださる。
 ただそれだけで嬉しかった。
 言えば兄上はふふと美しく笑んで、劉輝は無欲だねとお笑いになった。
 そうではない、そうではないのだ。
 首を振っても、兄上は聞き入れてくださらない。
 違うのだと何度も言う。
 私は貪欲で強欲で、だからだからと言ったのに。
 兄上は私の髪を撫で、頬をなぞって、しぃ、と唇の前で人差し指を翳して私に何度も仰った。
 本当なんて、本当の事なんて、自分だけが知っていれば良いんだよと。
 何の事か分からない。
 それに自分だけ、なんて。
 そんなの、寂しい。
 零れたそれに、兄上は殊更優しい笑みをくださった。
 泣き笑いに近いと、哀しい笑みだと、思った自分が嫌で、知らない振りをした。
 兄上は言う。
 それでも多分、それが劉輝を守るから。
 忘れては駄目だよと優しく、そっと優しく紡いだそれを、兄上は昊に還すよう。
 真っ直ぐ見上げて、何処までも蒼い昊を眺めやって。
 忘れては駄目だよと。
 再度私に言い聞かせた。
 それは、空に空と名付けるようなものだから。
 そう言って。
 多分、きっと。
 兄上ご自身にも、言い聞かせるように。





 見上げた昊。
 蒼い天上の海。
 白い(しるべ)もなく、ただある其れに。
 あの時兄上は、何を想われたのだろう。

(それは今をもって、知ることはない)





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 20110909
〈(誰かがあれを『 』だよと言ったから)〉





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