薄紫の鳥を見失った男の話

[ 問う。爆ぜたのは言葉か涙か心かと ]



 須らく物事は終焉へと運ばれる。
 有無を言わさず、けれど誰かが不満を覚える事もなく。
 気付かないのだ。
 誰もが。
 その変化が己の身に迫った時にしか。

(…愚かなものだ)

 感慨深さすら覚えたその愚かさは、己自身へと向けられた。

(あいつの事を愚かだと言えた義理ではないな)

 はた、と黎深は昊を向く。
 高く高く、何処までも在る蒼の連続。
 そっと髪を撫でる風は終着のない旅を永遠に続けるのだろう。

(それと同様に、傍に居るものと決め付けていた)

 ふと気侭に禁苑に足を運んでも、あいつは其処に居た。
 初めて会った場所からは少し遠い。
 二度目に会った場所。
 三度目の邂逅も、其処だった。
 雨の中、逃がさないと宣告した。
 あいつしか居ないと思った。
 離してはいけないと悟った。
 あいつは恐らく最初で最後の、本当の私の理解者だと。

(だから、最初から最後まで、ずっと一緒に居るのだと)

 愚かな。
 笑えてくる。
 けれど堪えて、無理矢理笑いを抑えたものだから、肺が痛い。
 痛くて。

(どうして、くれる)

 何故お前は此処に居ない。
 何故、お前が。

(どうして――…)

 それ以上の言葉は続かない。
 心の声も。
 思考の先も。
 本当の想いも。
 彼らの、関係も。

 ただ頬を伝う涙だけが、彼の声なき言葉だった。





戻る



 20090929
〈お前を失ってから、何度涙を零しただろう。そろそろ乾涸びてしまいそうだと、存外真面目に思った。〉





PAGE TOP

inserted by FC2 system