視線と微笑の関係性

[ 無自覚の恋 ]



(あ、真田先輩)

 休み時間、ふと窓辺へ寄れば、おそらく前の時間が体育であったのだろう真田が、グランドで級友らしき人間と戯れていた。
 その様子は、まるで。

(…子どもみたいだ)

 年齢から言えば、彼はまだ大人ではない。
 けれどどうもその落ち着いた雰囲気は、彼を年相応には見せなかった。
 だからこうして偶に学校で真田を見る時、彼はその差に僅かに戸惑う。
 自分の知らない彼を、こうして彼が知らないところで見る自分。
 プライベートを覗き見しているようで、些か居心地が悪い。
 それは常に偶然であるのだから、彼が罪悪感を抱く必要などどこにもないのだけれど。

(あぁ、でも…)

 と何かを思いかけた時、自分の呼ぶ声に気が付いてそちらを向けば。

「何?」

 同じ寮に住む、ゆかりがそこに立っていた。
 彼女は何かを言いかけて、けれど結局首を横に振って、ごめん、と言う。

(なんだろう)

 気にはなったが、次の授業の用意をしなければと、そこから立ち去った彼。
 だからその背を見るゆかりの視線に、全く気が付かなかった。





(……気の所為、かしら)

 既に自分の席に着いてしまった彼をこっそり見遣りながら、ゆかりは微かに首を傾げた。

(彼が、笑ったような気がしたんだけど)

 気の所為?
 本当に?
 見間違えるだろうか、普段無表情を貫く彼が、優しく笑うところを。
 そう思いはしたけれど。

(…そう、ね)

 きっとそう、と言い聞かせるように目を閉じるけれど。

(誰か、いたのかしら)

 やっぱり気になって、そろりと目を開けて彼が見ていた方を見る。
 けれど。

(誰もいない、か)

 当然か、とゆかりは小さく溜息を吐く。

(もうすぐ授業始まっちゃうし)

 私も準備しないと、とゆかりは身を翻して窓から離れ席へと向かう。
 その時視界に入った彼は、何時もと変わらず、無表情だった。





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 20090913
〈芽吹くのは、あと少し先のこと。〉





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