狂愛

[ a minor key ]



 真田先輩は、何も求めなかった。
 ただ人の欲しがる物は何だかんだ言っても与えてくれたのに。
 自分自身の望みは、ついぞ口に出す事はしなかった。
 それは多分正解なのだ。
 あの人の中で、あの人が育った環境の中で、あの人が自身に課した規則の中で。
 そう。
 結局はあの人の中だけでのみ有効な。
 だけど僕に何の制約があるだろう。
 だから求めた。

(それの何が悪い)

「  っ…」

 あぁ先輩が僕の名を呼ぶ。
 嬉しいな。
 潤んだ瞳に映るのは、僕一人。

「真田先輩」

(愛してあげる。その殺意ごと)

 だから、ねぇ。

「何が、欲しい?」

 指を絡ませそう聞く僕に、わかってるくせにとその唇はきつく強く引き結ばれて。





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 20090515
〈不協和音の狂想曲(カプリッツィオ)。〉





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