brothers

[ 孤独を抱きしめる少年 ]



『モクバ』

 呼びかけると、義理の弟とも言える彼は振り返り、ふわりと僕に微笑んだ。

「久しぶり―――乃亜」

 夏が終わるこの時期に現れる僕を、彼は決して拒みはしなかった。
 あんな事をした僕に。
 彼はただただ優しく微笑み優しい気持ちを与えてくれる。
 その事に救われながら、けれど気付かずにはいられない。

『瀬人は?』

 彼の優しい笑顔に潜む、寂しさと孤独に。

「…お仕事だよ」

 兄サマ忙しいから、と殊更笑みを深める彼は。

「あ、乃亜。空が綺麗だぜぃっ」
『…ホントだね』

 唐突に僕から顔を背けて窓から見える空を見上げた。
 確かにその空は綺麗だったけれど。
 ―――ねぇ、モクバ。
 気付いてる、彼が涙を隠す時、泣かないように空を見上げる事に。
 そうすれば涙が零れない事を、彼は悲しくも知っているから。

(……僕なら、そんな思い、させないのに)

 そう心の中で吐きながら、言う事は決してない。
 彼の実の兄への思いの強さを嫌というほど知っているからだ。

(―――そう、だから、自分は結局何もできないのだ)

 彼の後姿をただ眺めるしかない自身の手を握り締めながら、思う。
 いくら何かをしてやりたくても。
 僕ではたった一人の少年を孤独から救い上げてやる事さえできない。

(だって彼が求めるのは、僕じゃ、ない)





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 20070829
〈だからお前が気付いてあげなきゃ駄目なんだよ、瀬人。〉





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