misfortune
[ 突然の訪問者 ]とある日の深夜。
いきなりバクラが家に不法侵入して来て、寝ている俺に覆いかぶさった。
格闘する事約五分。
「君もしつこいなっ、いい加減どけってば…!」
「イヤだね。つーか、わざわざ俺サマが来てやったってのに何その態度」
あぁん?、と言わんばかりに俺の顎に手を添えて上を向かせるバクラ。
ムカツクっ。
「誰も頼んでないだろ!? それとももう惚けたか? 兎に角離せよっ」
そう言ってパシッとバクラの手を叩く。
ただでさえ疲れているのに、何でこんな事で更に疲れなきゃならないんだ。
理不尽さに腹が立つのもしょうがないと自己弁護。
「ったく可愛くねぇ…あぁ言えばこう言う…」
誰に似たんだか…とぶつぶつ言いながら、でもバクラは俺の上から退こうとしない。
「~~~! あのねぇっ、俺疲れてるし明日も仕事あるしで、君のお遊びに付き合ってる暇無いの!」
分かったら退け!!!―――と言っているにも拘らず。
「あ、明日は『ボンオドリ』とか何とかだからお前予定空けとけよ」
「人の話を聞いてたかこの馬鹿」
「宿主が王サマやら社長やらと行くんだとはしゃいでたな。俺も行きてー」
「獏良君が行くんなら君が行くのと大して違いは無いじゃないか」
ってか人の話を聞け。
「俺、明日無理だから。ホント。大事な新作の会議あるし」
「休んじまえ」
「無理言うなっ!」
ていうかホント退いてよね。
俺もう寝たい…。
「退いて」
「イヤ」
「いいから退けって」
「イヤだね」
「退け…っ」
「じゃあ『好き』って言って」
「ど……はぁ?」
再度退けと言いそうになって、途中で言い換える。
何だって?
「だから、俺に『好き』って言ってちょーだい☆」
「言い方気色悪いな! 大体いきなり何なのさ。何で俺がそんな事…」
「言ったら退く」
何を考えているんだか…。
そんな事言って何になるんだよ。
……まぁ良いや。
「スキ」
じゃ、退いてね、と手荒くバクラの体を突き放す。
けれど。
「『好き』なら離さなくていいだろ?」
と、更に強い力で抱きしめられる。
ちょ、…何こいつ!
「約束が違うよ! 反古するつもり!? 退けてよっ」
「ハイハイ。抵抗しない」
そう言って唇を重ねられる。
「んっ…バ…っ」
こ…んのバクラのバカ―――!!
窒息死するっての…!
「ケホっ…おま…長過、ぎ…っ!」
「でも良かっただろ?」
そんな問題じゃねぇ。
クソっ、ニヤニヤしてるバクラが凄く疎ましい。
「…でも」
唐突に、バクラが表情を消す。
「お前簡単に『好き』とか言っちまうのな」
ズキン、と。
バクラの言葉を聞いてどこかが痛くなった。
そんなもの…無視するのは『好き』を言う以上に簡単な事だけど。
「な…に言ってんのさ。俺は疲れてるから寝たい。ただそれだけだよ」
なんでこいつ相手に言い訳してるんだろう。
舌打ちしたい気分だったけれど、それより先にバクラがまたキスを繰り返す。
「バクラ…!」
「心配すんなって。ヤる事ヤりゃ眠れるから」
オヤジめ…。
嬉々として言うなよ。
それで流される俺も俺だけどね…。
「…はぁ…」
「溜息吐くと幸せが逃げるぞ」
誰の所為でだと思ってるんだろう。
つかよくそんな事知ってるね。
「……キミが今日この場にいる時点で、俺は幸せじゃないさ」
「ヒャハハ! んな訳ねぇじゃねぇか!」
……その自信はどこからやってくるのか一度聞いてもいいかな。
でも今日は止めとこう。
どうせ寝させてもらえないんだ。
無駄な体力は使わないに限る。
明日の会議…出られないだろうなぁ。
そのくせきっと盆踊りには行けるんだよ。
「…ほんと」
なんて災難。
20090703
〈『お前簡単に…――』寂しいそうな声。耳の奥で反響する。そんな風に言わないで。そんなんじゃない。馬鹿。なんでどうして、気付かないの。〉