蒼い鳥を撃ち落とした男の話
[ 悪意のない悪意 ]多分きっと、好き、と言ってはいけない相手だったのだろうと思う。
あいつは飛び続けていなければ死んでしまうような鳥で。
なのに俺はそいつから翼を奪ってしまった。
あんなにも身近に在った空を、焦がれるまでに切り離してしまった。
『―――嘘吐き』
あいつが堕ちて初めて喋った言葉は、侮蔑と憎悪と殺意に塗れたそれだった。
空を切り取ったような瞳からは止め処なく涙が溢れ、止まる事はない。
『嘘吐き』
なのに、そいつは俺の首に腕を回して抱きついてくる。
『…嘘、吐き』
抱きついて、そして、
多分きっと、好き、と言ってはいけない相手だったのだろうと思う。
『なぁ、』
純粋なそいつは、一つの道をただひたすらに進む事しか出来なかった。
『泣くなよ』
俺のその言葉によって、そいつの心は動かされてしまった。
『泣くな…』
俺が何も言わなければ、あいつは今でも大空に在っただろうに。
『…なぁ』
空から落ちず、俺に堕ちずに。
『―――瀬人』
海馬は今でも一人きりで生きて行けただろうに。
『嘘吐き』、と海馬は俺に言い続ける。
けれど俺は何も嘘など吐いていない。
(ただ)
何も、嘘など。
(空から落ちた鳥がどうなるのか、知りたかった、だけ)
…嘘、など。
20090929
〈あいしてやしないくせに。〉