均衡

[ 無関係で居られない ]



 色々な事が気になる、そんなオトシゴロだけど。
 何でその色々にアイツが入る?





  まるで恋をしたかのように





「…まただ……」

 舌打ちしたいのを堪えて、ただその言葉だけ吐き出した。
 最近オレは酷く時間を無駄にする。
 とは言っても、そんな何時間もと言う訳じゃなかった。
 例えば授業中のちょっとした雑談の時間や合間合間の休み時間。
 はたまた今のように屋上でサボってる、貴重な時間。
 そういう時間を、無駄に浪費するようになった。
 授業中なら足りてない睡眠を補う事が出来るし、休み時間は遊戯達と楽しく過ごす。
 サボりの時間は、まぁ、色々と。
 そんな訳で、少しの時間でもする事はある。
 ある、のに。

「何でそのオレのきっちょーな時間にアイツの事を考えてんだよ…っ」

 イライラして(もた)れ掛かっていたフェンスを力いっぱい蹴った。

(気付けば何時も考えていた)

 大嫌いでいっつもオレを見下すムカつくアイツの事。
 けどそれは、あいつをどうやったら倒せるとか、弱点は何か、とかじゃなくって。
 風に揺れる髪がさらさらだとか。
 カードを引く手がカッコいいとか。
 肌が白いから直ぐ赤くなりそうだとか。
 あの馬鹿でかくて重いケース振り回してるくせに体の線は細いよなとか。
 あの瞳は反則的なくらい綺麗だとか。
 そんな、事。

(大嫌いなのに)

 どうしてそんな事を考えなきゃいけないんだ。
 アイツはオレ達を酷い目に合わせようとした奴で。
 手に入れたい物の為には汚い事も平気でする最低な奴で。
 オレを「凡骨」だの「犬」だの呼ぶムカつく奴で。
 だから、アイツの事を考える自分に腹が立つ。
 イライラする。

(それに、だ)

 最近は更に最悪な事に、アイツの事を考えるのは休み時間やサボりの時間だけじゃなくなってきた。
 偶に学校に来るアイツを見て。
 海馬コーポレーションのビルを見て。
 果ては仕事中に。
 またその事に、イライラは増す。

「くそっ…!」

 なんなんだよ。
 なんで。
 なんでアイツの事考えなくちゃなんねぇんだよ。
 意味分かんねぇよ。
 時間の無駄だろうが。
 他にする事があるのに。
 しなくちゃならない事を放棄してまで考える事じゃない。
 大体もうこうやってイライラしてる事自体可笑しいんだよ。
 考えるな。
 何も。
 アイツの事も。

(何も)
(考えるな)

 深呼吸。

「………オッケ」

(大丈夫。大丈夫。オレは、…大丈夫)

 そう、心の中で繰り返し呟いて。





(まだ、気付かないままでいられる)
(このキモチに)
(知らないフリを、続けられる)
(―――今は、まだ。)

 大丈夫。
 大丈夫。

(まだバランスは、保たれてる)





戻る



 20060401
〈(あぁ何故空は蒼いのだろう)〉





PAGE TOP

inserted by FC2 system