voice
[ 僕の声、彼の声。 ]久々に会った海馬君は、いつ倒れても可笑しくない状態だった。
「海馬君」
「……遊戯か」
目を開くのも億劫だと言うように、声だけを頼りに僕だと判断した海馬君。
「どうした」
それはこっちの台詞だよ、と。
海馬君の頬に手を添える。
「僕、言ったよね?」
絶対に無茶しないでって。
きつめの声音でそう言えば。
「…そうだったな」
言外に忘れてたと言う海馬君。
そんな言葉に騙されてやるほど、僕は優しくない。
「―――海馬」
少しお腹に力を込めて低い声を出す。
自分でも似てると自負するのは―――彼の、声。
「ゆう、ぎ…」
途端、海馬君の頬に当てた掌が濡れていく。
息は乱れない、声は出さない、けれど。
彼は静かに泣いていた。
僕の声で紡がれる彼の声。
そんな偽りの声でさえ、海馬君は彼を想って泣く。
本来の自分の声では決してこうはならない。
分かってるから、じっと海馬君の涙を見詰めながら。
彼への嫉妬を、ただ、飼い殺していた。
20070812
〈あの時彼から奪っておけば良かったのか。(嘲笑する。既に結果が出ている状態の仮定など、無意味でしかないのに)〉